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第237話

*** 「ユキ?」 アリスと買い物帰り、ふと名前を呼ばれて振り向いた。 『ユキ』は風俗で働いていた時の名前だ。この名前を呼ぶ人は昔一緒に風俗で働いていた友人か、その関係者だ。 「リン…」 「久しぶり、お店辞めてから全然会ってなかったよね」 彼は『リン』と言う。僕が働いていた風俗店で指名NO.1の人気嬢だ。 僕は彼が少し苦手であまり話したことがない。 「お友達?」 「あー、うん。まぁ」 「どうも、昔の同僚のリンと言います!」 アリスに自己紹介し、にぱっと笑うその無邪気な姿は一見可愛らしいが、中身は悪魔みたいな男だ。 腹黒で、気に入った客は寝取り、貢がせた挙句捨てるという中々のクソ野郎ぶり。 僕はそれを知っていたからあまり近づかなかったけれど… 明らかにリンの目がアリスを狙っているように見えて少し怖い。 「ねえ、ユキ」 「な、なに?」 隅に連れていかれ、コソッとアリスには聞こえないボソボソ声で話しかけられる。 嫌な予感がする。 「あの人、俺にちょーだい」

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