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第2話 - 03

  「……後藤」 「へーへー、すんませんね」  先輩が諌めるように呼び掛けると、いつの間にか椅子に座っていた彼はぺろっと舌を出して見せた。  後藤は僕が嫌いらしい。後輩であるのに何かと突っかかってきて、その度先輩に怒られていた。しかし、後藤を睨みつけていても仕方がない。本来の用事を思い出した僕は、先輩へと向き直る。 「あ、の先輩」 「……どうした?」  芳野先輩は僕の声に、薄く微笑んだ。普通ならその笑みにどきどきして何も言えなくなってしまうのだが、これから言わなければならない内容を思うとそんなときめきすら何処かへ消し飛ぶ。 「今日、用事があって。欠席してもいいですか?」 「用事?」  僕が議会を欠席することはほぼないからか、先輩は僕の言葉に怪訝そうな顔をする。 「……不登校の生徒の家にプリントを届けろって、先生が」 「そうか、それなら仕方がないな」  先輩はまた柔らかく微笑んで、思ったよりもあっさりと許可を出してくれた。そのことにほっと胸を撫で下ろす。正直、絶対にダメだと止めてもらいたい自分も居たのだが。それを黙って聞いていた後藤が、急にこちらを見る。 「えっ、さいとー先輩今日いないんすか?」 「……」  無言を肯定と取ったらしい。それまで不機嫌そうに顰められていた後藤の顔が、喜びにぱぁっと輝いた。僕が後藤より喧嘩が強ければ、胸倉を掴んでその満面の笑みを一発殴っていたかもしれない。生まれてこの方殴り合いの喧嘩などしたことのない僕は、握り拳を作ってそれを堪えるしかなかった。  

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