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第2話 - 06*
「!」
そこに広がっていた光景に思わず声を上げそうになって、僕は慌てて自分の口を塞いだ。そのわりに頭は状況を理解していなくて、恐る恐るもう一度じっくりと覗き込む。
カーテンで閉め切られた部屋でも、蛍光灯の光を受け黒檀のように輝く黒髪。意外と整った横顔は、確かに鈴木のものだった。しかし、普段は不健康なほど真っ白な頬が、今日は薄く赤に染まっている。それもそのはず、彼は部屋着のスウェットを少しずらして、その昂りを自分の手で慰めているからだ。俯いて伏せられた睫毛が、快感によってか時折ぴくりと震える。小さく声を漏らして身動ぎする時、近くの机に足が当たって、がた、と音を立てた。音の正体はこれだったようだ。
「っ、は……んっ」
「……!」
扉を開けると、それまで聞こえなかった鈴木が漏らす声がダイレクトに聞こえてくる。その低い声に、一気に顔が熱くなった。扉を閉めることも出来ず、何をしているんだと声を出すことも出来ない。あまりのことに指先一つ動かせず、ただただその行為を見つめていた。
「ん……っ」
黒髪が掛かるその横顔は、本当に先輩に似ていた。先輩もこういうことをするのだろうか。そういう時、こんな気持ちよさそうな顔をするのだろうか。どきどきと心臓が早鐘を打って、その顔から目が離せない。だからだろうか、ごく至近距離からした、ごとりという大きな音に飛び上がるほど驚いた。ゆっくり自分の足元に目線を動かすと、そこには僕の汗ばんだ手から落ちたであろうスマホが転がっている。機械的に部屋へと視線を戻せば、その音に鈴木も顔を上げて、僕の方を見ていた。
「……誰」
「……!」
鈴木の諌めるような声が聞こえた。今更逃げることなど出来ない。僕は覚悟を決めるとゆっくりと扉を開け、その隙間に身体を滑り込ませた。後ろ手に扉を閉めると、ばっちり鈴木と目が合う。きっと僕の顔は鈴木よりも真っ赤だ。
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