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第1話 - 04

「うわあっ」  のろのろと状況を理解した頭が、反射的に身体を遠ざける。しかし膝をついていた身体はうまく動かず、その場に尻餅をついてしまった。じんじんと響く鈍い痛みが、火照って蕩けた頭を冷静にさせていく。  僕は、死ぬことを免罪符に先輩に何をしようとしていたのか。弁解しようにもしようがない。おっかなびっくり顔を上げれば、先輩はふあと大きく一つ欠伸していた。 「なにしてンの、お前」 「え!? えっと、あのぉ……っ」 「斉藤からおはようのちゅーとかいらねぇんだけど」  必死に言い訳を考えようとして、そこでふと違和感に気が付いた。  言っている内容もそうだが、声がいつもの先輩のものではない。先輩よりも少し低く、いつものような覇気がなかった。冷静になって見てみると、その後ろ髪は先輩のものより長い。制服も校則違反と言えるくらいに着崩されていた。生徒の模範とも言える生徒会長である先輩が、制服をここまで気崩すはずがない。  まさか。めんどくさそうに大きく伸びをするその胸元を見ると、3-Cと書かれているはずのクラスバッチには、2-Bと書かれていた。 それは、僕と同じクラスだ。同じクラスでこの黒髪。このだるそうな態度。そうすれば、思い当たる人物はもう1人しかいない。  それは先生も頭を悩ますサボり魔、鈴木だった。 「なあ」 「……!」  見紛うはずもないと言いながら、僕はしっかり見紛っていた。僕がキスしようとしていたのは先輩ではなかったのだ。恥ずかしさで顔に熱が集まるのが判る。  死にたい。消えてしまいたい。今すぐ飛び降りたい。しかし鈴木は僕に逃げるだけの時間を与えてくれなかった。鈴木は逃がさないとでも言うように、僕の腕を強く引く。

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