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第2話 - 01
その日から、僕の頭に授業内容など入ってこなくなった。
毎日鈴木が来るか来ないかと怯え、授業に集中出来ないほど憂鬱な気分で過ごしていたからだ。勿論ノートも真っ白。写させてくれる人もいないから、もう諦めるしかない。
気付けば、あの出来れば思い出したくない邂逅から1週間も経っていた。その一週間の間、鈴木は学校に来ていない。僕的には鈴木が休んでいた方がバラされるという不安もなく平穏に過ごせる。だが、学校側からしてみればそういう訳にもいかないらしかった。
「……鈴木を説得? 僕がですか?」
「あぁ。鈴木、ずっと学校に来ないだろ。こういうのはクラスメイトが言う方がいいと思うんだよ」
「はあ」
職員室に日誌を届けに行っただけなのに、僕は担任に捕まった。どうやら担任は鈴木の出席日数を気にしているようだった。しかし教師がいきなり家に押し掛けるのも、鈴木を追い詰めてしまう。その前段階として同級生に頼みたい。ということで、僕に頼むことを決めた。というのが、担任の非常に迷惑な言い分だった。
出来れば避けたい。出来れば、というより、絶対に会いたくない。僕は頭をフル回転させて言い訳を考える。
「……でも僕、鈴木の友達とかじゃないんですけど」
出てしまった言葉は取り消せないが、捻り出した言い訳はとても苦しいものだった。これでは、クラスメイトを見捨てる最低な奴のようにも聞こえる。担任もそう思ったのか、この言葉に顔を顰めた。
「そう言うなよ、クラス委員だろ」
出た。それは僕に対する魔法の言葉だった。一生懸命考えた言い訳でも、この言葉の前にはなんの意味も成さない。言い淀む僕に希望を感じたのか、担任は快活そうな笑顔を浮かべた。
「頼まれてくれよ」
「……はあ」
「さすが優等生!」
嫌なことでも嫌と言えないこの性格が恨めしい。担任は激励でもするように僕の背中をばしばし叩いて、机から生徒の名簿を取り出した。それから、鈴木の住所欄を指して僕に見せる。鈴木の家は、意外と僕の家から近いようだった。
「お前の帰り道だろ? 寄ってってくれ」
「……はい、分かりました」
鈴木の住所を記した紙と、彼が欠席していた間に配られたプリントの束を握らされ、僕は職員室から送り出された。追い出されたとも言うかもしれない。音が立たないようにゆっくり扉を閉めて、僕は堪えていた溜め息を吐いた。
「……はぁ」
クラス委員というのは思ったよりも面倒だ。さしずめ、先生の犬と言ったところか。教師にはこういった雑用を押し付けられる。それを頑張ってこなせばこなすほど、生徒には煙たがられ嫌われる。それでも絵に書いたような模範解答を目指すのは、もはや誰の為なのか。優等生のふりというのは、楽ではなかった。
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