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第2話
大人の事情は判らないから、牛車から派手な男が降りてくるのも、屋敷へ忍び込むのも、僕の見るべきものじゃない。
牛を休ませ、車を端に寄せ、後は帰るのを待つのみ。
「門番の方、少し話さないか?」
金色の牛車の中から、従者の方の囁き声がした。
「構いませんよ、どうせ寝てしまうわけにはいきませんから」
「お互いにね。交互に寝るのもいいけれど、君と話がしてみたい」
「何度かご縁がありましたが、お話するのは初めてですね」
僕と従者は分厚い屋敷の門の下、見張り台の階段に腰を下ろした。
「門番さんは年はいくつだ? 俺より大分若いと見える」
「従者さんはおいくつですか? 僕は自分の生まれた日を知らないので、年も正しいことは判らないのです」
「ほう。ではなぜこのお屋敷に?」
「アサリを捕ってこのお屋敷で買っていただいていたのですが、僕の目が良いところを気に入ったと、主人が門番の役に呼んで下さいました。有難いことに、読み書きも屋敷で教えてもらっています。僕は物覚えが良いのだそうです」
「そうか。苦労したのだね。
俺は元々街の人間ではない。この牛と一緒に、里から買われてきたのだ。美しく賢い牛に育てたら、俺以外には懐かない牛になってしまって、仕方なくといったところだ」
よかったら、と従者さんが油紙を開くと、角が沢山生えた白い粒を差し出した。
「金平糖はお好きかな?」
「初めて聞く名です。岩塩……ではないのですね。とう、は砂糖のとうでしょうか」
勧められるままに口に頬ると、今まで知らなかった甘み、そして突起が口内を刺して回る。
「甘いです。なのに、突いて痛めつけようとする。不思議な形ですね」
「なるほど。こ奴はこうして抗っているのやも知れぬな」
角に対抗して、歯を立ててみると、あっという間に消えてしまった。
「金平糖というのは、噛まずに舐める方が長く楽しめるのですね。僕、覚えました」
口をきつく閉じていないと涎が落ちてしまう。話すのは食べ終えてからでも良いだろうか。
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