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鬼月
「今回は30文。やっぱり生活きついのかな」
嘉平が置いて帰った麻袋の中身を数えながら、部屋の片付けをしている如月に聞いてみる。しかし、如月は答えるつもりがないのか黙ったままだ。如月が鬼月のことを無視するのはいつものことだしあまり気にはしない。ただ、ちょっと苛つくから片付けたものをまた散らかしたりと仕事を増やす。
「………何だ、さっきから」
「だから俺聞いてるじゃんか。あの子、生活厳しいのかなって」
「厳しいのかなって、厳しいに決まってるだろうが。何でも屋で働いているらしいが、毎日仕事がある訳じゃない。銭もたくさんもらえる訳じゃない」
「ふーん」
如月の言葉に気のない声で返事を返した。一晩で何十両も稼ぐ鬼月には、嘉平の大変さが分からない。だが、少しだけ寂しく思えた。来る度に中身が減る麻袋が。
「鬼月」
部屋の片付けを終えたらしい。如月が、ぼんやりと麻袋を眺める鬼月を呼んだ。如月の方を向けば、そっと手を取られる。そして如月は、鬼月の指先にそっと唇を落とした。
如月の行動を鬼月は黙って眺める。ひと月に一度訪れる、如月の謎の行動。その行動の意味を、鬼月は何となく気づいていた。昔から共にいたのだ。それこそ、親に捨てられた時から。如月に名前を与えたのも自分だ。
鬼月にとって如月は、可愛い可愛い自分の子供みたいなもの。それから自分が生きる上で大切な駒。
「本当、お前は可愛いね如月」
麻袋を床に置き、如月の頬に触れようとした時だった。障子が開き、浅葱の世話係である若い男が入ってきた。
「なに?」
「浅葱様がいらしています。何でも、緊急の話があるとか」
「………分かった。如月、もう下がっていいよ」
よく見れば、障子に人影が見える。浅葱が自分を呼び出さずここに直接来たってことは、何かよくない話なんだろう。それが簡単に予想できた鬼月は、如月を下がらせる。
如月はすっと立ち上がると、若い男の横をすり抜け部屋を出る。そして人影に頭を下げてその場を去った。
「で?何の用なの、浅葱さん」
呼べば、浅葱が部屋の中に入ってきた。若い男は、浅葱が部屋の中に入り座るのを確認すると立ち上がり部屋を出た。
「それで?浅葱さんがここに来るってことは、和泉屋にとってあんまりよくないこと?」
「そう、だな」
浅葱は、悔しそうに下唇を噛み締めた。そんな浅葱の姿を、鬼月は笑ってみていた。
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