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第15話 すきであるがゆえに -1

「っ、やめろ! 俺に触んじゃねぇ!」 「ちょっとほら、落ち着いてくださいよ会長様」 「おい、お前そっち押さえてろ」 「ざけんな! 触んなっつってんだろ!」 「はいはいどーどー」  口々に掛けられる馬鹿にした言葉。四方八方から伸びてくる手。向けられる下品な視線。  渾身の力で抵抗しようとも、多勢に無勢であっという間に制服は剥ぎ取られていく。暴れる手は後ろで一纏めに、足もそれぞれ折り畳むように縛られた。怒鳴る口にはタオルの猿轡を噛まされる。そのまま無様にベッドに横向きに転がされ、それでも渾身の眼差しで下衆な目で見下ろしてくる糞野郎共を睨み上げれば、静かな部屋にごくりと唾を飲む音だけが響いた。  彼らのギラギラとした眼差しを受け止め、荒く吐き出される息を感じ、今にも飛び掛かってきそうな勢いに気圧され。縛られた体が、みっともなく震える。怒りと屈辱と共に、桐生は今初めて、犯されるということに対する恐怖を抱いていた。 『ならよ、俺としてみねえか?』 『仁科、俺を抱け』  フラッシュバックする自分の言葉。自ら男を誘い、貫かれ悦ぶ自分の姿。  ――これは、罰か。  見知らぬ生徒二人に声をかけられた時は、まさかこんなことになろうとは思ってもいなかったのだ。絡まれたことに対する面倒くささは感じていたけれど。それでもいつものようにあしらってやれば済むだろうと。  桐生のことを真性の色情魔だと思っているらしい奴らは、お前らなんか願い下げだと伝えればすぐにすごすごと引き下がっていく。複数でくるような奴らは特に、ビッチ会長をどこか見下し蔑みながらも、しかし天下の会長様に逆らったり強気にでることはできないような男共ばかりだったから。  そう、だから、こちらがはっきりと拒否すれば、それでも強行手段にでられる輩などこの学園にはいない、はずだった。 『てめえらに付き合ってる暇はねえよ。俺抜きで勝手にヤってろ』  しかしそんな甘い予想は、容赦なく裏切られる。油断して舐めきっていたせいで雲行きが怪しくなるのは、あっという間で。 『そんなこと言わずにさあ、会長様』 『生徒の味方の会長様ならかわいそうな俺たちの溜まったもん吐き出させてくれるっしょ?』 『いつもセフレちゃんたちとヤッてる分を、ちょこーっとわけてくれるだけでいいからさあ』 『それにあんたも、最近すっげえ欲求不満そうじゃん?』  ――だから、俺たちが解消してあげるよ。  その言葉は、桐生の動きを鈍らせるには充分だった。  ビクリとあからさまに顔色が悪くなったのを見逃さず、彼らは桐生の両脇へ回り込んで。鈍っていた頭であっと思った時にはもう遅かった。そうして桐生は、あまりにも簡単に、彼らに捕まってしまったのだ。  腕と腰、口と腰に絡んでくる腕は、丁寧にエスコートしているようで、その実見事に桐生の抵抗を阻む拘束具で。逃げ出そうとしていくら暴れようと、二人がかりで押さえられてしまえばどうしようもなかった。  そうして無理やり連れてこられた部屋で待っていたのは、新たな二人の一般生だった。 「あはは、ほんっと、うちの会長様はえろいなー」 「んな睨まないでくださいよ、あんたが悪いんだから」 「あんたが最近えろすぎんのが悪いんだっつーの」 「どうせこうして欲しくてあんな顔してたんでしょ? ビッチ会長さん」  好き勝手なことを宣う奴らを怒鳴り付けようとも、口から出てくるのは轡にくぐもった間抜けな音だけで。彼らは着衣しているのに自分だけ全裸で拘束されているという状況に、信じられないほどの屈辱と怒りが止めどなく沸いてくる。 (なんで、どうしてこうなったんだ――……)  頭を回るのは、この状況に対する憤りと疑問。悔しさと屈辱で、頭が沸騰しそうだった。  彼らの性欲が異常なせい。彼らの策が周到だったせい。いつもと同じだろうと油断していたせい。  それともまさか本当に――俺が、誘っていたとでもいうのか。久谷や仁科を、誘ったときのように。 「しっかしまさか会長があんなとこで座ってるなんてね」 「無防備すぎて思わず作戦忘れちゃいましたよ、一応シナリオ作ってあったのに」 「あげく直球でいって断られるっていう」 「でもほら、もう喜んで受け入れてくれますもんね、桐生会長?」  興奮しているせいか、早口でどこかぎこちない笑顔の下、欲望をたぎらせながら迫りくる四人分の手。その手に、舌に、表情に対する、吐き気を催すほどの嫌悪感。ざっと血の気が引いていく。 (いやだ、ふざけんな、触んな、くそ、死ね、死んじまえ……!)  言いたいことは山ほどあった。視線で殺せるものなら殺してやりたかった。  それなのに、なに一つ言えないまま、碌な抵抗さえできないままに、彼らが体に触れるのを簡単に許してしまう。嫌なのに、気持ち悪いのに。それなのに触れられた瞬間、触れられる嫌悪感に反射的にビクリと体が跳ねて、彼らの望む反応をしてしまう。 「あはは、びくってした、かーわい」 「どうですか会長、気持ちいい?」 「んぐう、んんーっ!」  口から出るはずの罵詈雑言は、すべて轡に吸い込まれていく。必死に抵抗しようとしてもできるのは体を捩ることくらいしかなかった。芋虫のように這いつくばって身を震わすことしかできないのが、どうしようもなく屈辱的で、恥辱的で。  ギリギリと殺意を込めて睨み上げた先、目に飛び込んできた光景に――ギクリと桐生は硬直した。 「やばい超興奮してきた、あんたえろすぎ」 「そんな顔して男誘いやがって……まじクるわー」 「こっち向いてよ会長様、もっとその顔見せて」 「ははっ、そんな怯えた顔しないでくださいよ、めっちゃ興奮するから」 「……っ!」  欲情しきってギラつき血走った目。興奮して荒く吐き出される熱い息。そして、取り出された猛った逸物。  逃げだそうと本気で足掻こうとした瞬間、四方から腕が伸びてきて無理やり足を開かされる。血の気が引いた。無理だと叫ぼうとも言葉にはなってくれない。なにもされていない、縛るとき以外触れられてさえいない体で、そんなモノに耐えられるわけがなかった。どうしてこの状態で耐えられると思うのか。  しかし目の前の輩には、そんなことは関係がなかった。四本もの逸物を目の前に怯えを滲ませる桐生に、彼らの鼻息は一層荒くなる。無抵抗に転がっているしかない無防備な桐生の後孔に、ぐり、と熱いモノが押し付けられる。 「つーわけで、あんたが煽ってくれたモノ……自分で始末、してください、よっ!」 「――んぎ……ッ!」  ぶちり、皮膚が切れる音。  痙攣する体。霞む視界。はくっと喘ぐ口。 (――……!)  無意識のうちに叫んだ名前は、しかし音にならずに消えていった。

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