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第15話 すきであるがゆえに -2

「あーっ、いーね、すっげいい」 「ふ、んう、んっ」 「あっやば、あーでるでる、イクっ!」 「ふぐっ、う、んぐうっううっ……!」  がちゅがちゅと音を立てて口内を出入りしていたモノから、突然吐き出された白濁。顔を引こうにも強引に押さえつけられた頭は逃げることも許されず、窒息しないためには喉を動かすという選択肢しかない。  目の眩むような屈辱の中でそれを飲み下しながらも、ねっとりと喉に絡まる液体の感触に吐き気を覚えて喉が震える。するとまた、その震えが気持ちいいとでもいうように目の前の腰も小刻みに揺れた。 「げほっ、んぐっ、は、かはっ……」 「おーおー、いーい顔」 「そんなに旨かったか? 俺の精液」 「くっ、ぁ、だま、れっ……!」  ずるりと口から抜け出ていったモノは、今度は体に擦りつけられる。後ろに挿れられているモノはまだ出し入れされているし、萎えたモノも体に擦りつけられて昂りを取り戻していった。そして空いた口の前にはまた、別の逸物が翳される。 「ははっ、まだそんなこと言うんだ?」 「も、抜け、やめろっ……!」 「生意気な顔、してんじゃねえよっ」 「そーそ。あんたは突っ込まれてアヘってればいいんだっての!」 「っ、やめ、あ、いあああッ」  ギリッと睨みあげると、後ろで好き勝手腰を動かしていた男が苛立たしげにぐりぐりと裂けた傷口を拡げるようにモノを押し付けてきて、痛みに視界が霞む。あまりの激痛に体が痙攣し、悲鳴が口から迸った。 「あーあー、かわいそうに会長様」 「んな泣くなって、これ以上俺たちが興奮したら大変なのあんただよ?」 「うっわ泣き顔に興奮してる変態いるし!」 「お前に言われたくねーよ! さっきから口ばっか突っ込んで苦悶の顔楽しんでるくせに」 「普段はノーマルな性癖です~。でもやっぱ、天下の会長様となるととことん折ってやりたくなるというか……」 「それはめっちゃわかる」  好き勝手喋りながら、彼らの責める手と腰は止まらない。そしてそれに対して漏れる声も止まらない。最初は言葉を奪うものでしかなかったけれど、外されてしまった今は、轡がほしくてたまらなかった。  いつまで経っても終わらない、いくら処理しても終わりの見えない狂宴。  いったいあれから、どのくらいの時間が経ったのか。散々弄ばれ、好き勝手に蹂躙され続けた体はもうとっくに限界を越えていた。四つん這いになった手足は痺れ、ほとんど力は入らない。途中で拘束は解かれていたが、自由になったところで抵抗なんて、逃げ出すことなんてできなかった。  桐生にできることなどもう、ただただ、この狂った時間が過ぎるのを願うことだけ。  嫌だ、もう嫌だ、早く終われ、とっとと終われ、もう、終わってくれ。  なすがまま、乱暴に体を揺さぶられながら、もうとっくに麻痺してもいいはずの状況なのに、もうとっくに意識が飛んでいいはずなのに、しかしプライドと体力はそれさえ許してはくれない。信じられないほどの痛みと吐き気を催すほどの屈辱しか感じられない中、それでも桐生はすべてを受け止めるしかない。  感じなくなることも意識を飛ばすことも許されず、すべてを感じて記憶してしまう。地獄のような時間だった。死んでしまいたいくらい辛かった。  けれど、それでも。今、助けを求められるような相手は――彼には、いなくて。こんな時に名前を呼べる相手がいないことに、気づいてしまって。  しかしそれは、桐生にとってはありがたいことだった。名前を呼んで縋らなくて済むのなら、助けを期待しなくて済むのなら、もしかしたら誰にも、こんな姿を見られなくて済むかもしれないのだから。  これが、自分がしてきたことに対する罰だというのなら、構わない。  構わないから、もうなんだっていいから、だからとにかく誰にも気づかれることなく終わればいい。誰に気づかれなくたって、助けられなくたっていい。助けが来ようが来まいが結局は終わるのだから、だったらむしろ、誰にも気づかれないで終わってほしかった。  副会長にも、会計にも、仁科にも。  それになにより久谷だけには――こんなことになっている自分を、絶対に知られるわけにはいかないから。 「おら、やすんでんじゃねえよっ!」 「まっ、んぐう、んんっ」 「ははっ、本当に下のお口も上のお口も絶品だなあ、淫乱ビッチ会長様」 「ん! ん、んんう!」  痛みばかりを与えられ続け、すっかり消耗しきった体は一度たりとも昂ることはなかった。上がる声だって嬌声とは程遠い、ただただ苦痛を訴える、苦悶に満ちたそれだけで。  だけど、どうしても考えてしまう。もしも彼らに与えられているものが、痛みではなく快楽だったとしたら。ただただ快楽ばかりを、与えられたとしたら。  久谷に組み敷かれたときのように。仁科の上に跨がったときのように。意志とは関係ないしに――感じ、善がり、喘ぎ、乱れないとは言い切れない、自分が。その可能性を否定できない、簡単に意思を裏切るこの体が、どうしようもなく、恐ろしくて。  こうして犯されていること自体は構わないのだ。痛みに怯え、苦痛に声が出ることはあるけれど、しかしそれは今だけ。一時的な身体的なダメージでしかない。だからそんなもの、別に平気。犬に噛まれたとでも思っておけばなんの問題もないから。 (だけど――……)  だけどただ一つだけ。ただこの事実を知られることだけが、ただただ恐ろしい。犯され、それにさえ感じないとは言い切れない、むしろ悦んでしまいそうな自分の体。それを久谷に知られることが、今の桐生にとって最も恐ろしいことだった。 第15話 すきであるがゆえに(とおくありたい) 完

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