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第1章 噂の2人 3

「誰かと約束してるって言ってたの嘘かよ?」 「ああ。あんな香水臭い奴の隣で飯食えるわけねぇ」 意図せずバレてしまった本性だが、今更取り繕う気など起きない。思ったことを言えば言うほど、榎本は呆れを強く滲ませる。 鍵のことを聞けば、どうやらミドリが落としたらしい。どうせ俺から鍵を回収した後も他の男とあの部屋のソファーを使ったに違いない。あのズベタが。 お前が誰とどこで何をしていようが勝手だけど、そのせいでしばらく雌豚共から逃げるのが大変だっただろうが。 でもまあ、そのおかげでこいつとここで会えたわけだ。そんな風に思うくらい、榎本と過ごす昼休みは悪くないと感じていた。 意外にもコロコロと変わる表情は見ていて飽きない。いつも仏頂面のイメージがあったから、余計に。 所謂ギャップってやつが、俺の好奇心をくすぐる。こいつのいろんな表情をもっと見てみたい。 サボると言う俺を白い目で見る榎本は、真面目に授業を受けに戻るらしい。榎本が屋上から出て行く気配を感じながら、眠りに落ちた。 翌日。相変わらず蝿のように煩く纏わり付いてくる女共はウザったかったが、いつもとは少し気分が違った。 榎本は、今日も屋上に来るだろうか。 いつも通り授業を受け、女を追い払い、屋上へと向かう。学校へ来る途中コンビニに寄って買った昼飯は今日もパンだ。 ガチャリ、開けた扉の向こうには榎本はいなかった。 「…なんだ、いないのか」 女を追い払うのに時間を取られたから、俺より後に来るということはないだろう。 なんとなく残念な気がしたが、そもそもなんで俺が榎本が来ないだけでがっかりしなきゃいけないんだ。 そう思った時、頭上から声が響いた。 「よぉ、柳楽」 上を見上げると、貯水タンクの上からこちらを覗き込む榎本がいた。太陽の光に髪が透けてキラキラ光って、綺麗だと思った。 ヒラヒラと手を振って応えると、上に来るよう誘われた。なんでそんな暑そうなところに、と思わないでもなかったが、梯子を上って榎本の隣に座った。 「なんでこんなとこなんだよ。日陰の方がいいだろ」 「高いとこが好きなんだよ」 屋上って時点で既にかなり高いだろう。 榎本が広げた昼飯は、今日も手作りの弁当だった。彩よく並べられたおかずたちは、誰も手が込んでいそうだ。 「…うまそうだな」 「お袋が料理だけは凝ってんだよ」 ふーん、と相槌をうっていると、何故か榎本さ俺の持っているパンを凝視し始めた。

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