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第1章 噂の2人 4

「…食う?」 「いや…そうじゃなくて、昨日もパンだったなと思って。パン好きなのか?」 「特には。楽だからいつもこうなだけだ」 弁当を自分で作るなんて面倒にも程があるし、あいにく榎本の家みたいに親が用意してくれるわけでもない。 コンビニでも弁当は売っているしたまに買うことはあるけど、基本的に食に興味は無いので楽さが一番重要だ。 そう伝えると榎本は変な顔をした。いきなりどうしたんだ。 「何唐突に変顔繰り広げてんだよ」 「…変顔じゃねーよ!体に悪いなと思って。もしかして朝も夜も適当なのか?」 「朝は何も食べない。夜は帰ったら用意されてる」 「お前、1日に1回しかマトモな飯食ってねぇのかよ。どうせ間食とかもしないんだろ?」 「特に腹が減ることがないからな」 「それでもほんとに男子高校生かよ」 深いため息をついた榎本は、ズイっと弁当を差し出してきた。 「…なんかほしいのあったら食え」 「え」 「言っとくけどな、おふくろの飯マジでうめぇから」 今日の弁当のメインであろう唐揚げが2つ残っていたので、それを1つもらった。 薄すぎず濃すぎずちょうど良い味付けで、肉も柔らかい。どうやら榎本の母親の料理の腕前は本物らしい。 「うまい」 「だろ。お前さ、もっとちゃんと食うようにしろよ」 お前は俺の母親か、とツッコミそうになったが、そういえばあの人に今までそんなことは一度も言われていないな、と思い返す。 口煩い榎本に適当な返事をしながら、口の中の唐揚げを飲み込んだ。 それから毎日、昼休みに屋上に通った。昼飯を食うのは決まってタンクの上、何か好きなものを食えと榎本が弁当を差し出してくるのにももう慣れた。 教室では榎本が話しかけてくることはなかったから、俺も話しかけなかった。 榎本はうるさいのが苦手なんだと思う。俺に話しかけてくる女共の甲高い声を聞いて顔をしかめているのを見たことがある。 俺と一緒に飯を食っているなんてバレたら、女共がより一層うるさくなるのは目に見えている。下手したら榎本本人にも群がるかもしれない。 そう考えるといい気はしなかったので、榎本との関係は周りには秘密にすることにした。 今日もいつも通り屋上に行こうと思っていたのだが、朝教室に榎本は来なかった。 噂とは正反対に真面目な奴だから、サボリではないはずだ。珍しく寝坊して遅刻か? そんな予想は外れ、榎本は風邪を引いていたらしい。担任がHRで彼の欠席を伝えると、クラスメイト達はあからさまにホッとしていた。 「榎本休みか〜、あの眼光に今日は怯えなくていいんだな」 「毎日サボってくれていいんだけどな…」 「隣からの圧が今日は無い……」 榎本は特にクラスメイト達に害は及ぼしていないはずだが、なんでこんなに恐れられているんだろうか。

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