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第1章 噂の2人 5

「榎本が休むのは初めてだな。拗らせたら何日か休むかもしれないか…。困ったな、来週の月曜までに提出の書類があるんだが…」 今日は木曜だ。もし明日も休むのなら、渡すことができないわけか。 「今日の日直は…遠藤か。すまないが榎本の家まで届けてもらえないか?学校のすぐ近くだから」 「えぇ…」 指名された遠藤が、嫌とも言えずに泣きそうな顔をしている。周りは気の毒そうな視線を送るものの、代わりを立候補する者はいなかった。 昼休み。いつもの癖で屋上へいこうと立ち上がったところで、今朝のやりとりを思い出す。 そのまま遠藤の元へ向かい、ワタワタしていたが御構い無しに話しかけた。 「遠藤くん。僕でよかったら、榎本くんにプリント届けるの代わるよ」 「えっ、えぇ?!それは…えと、あの…ありがたいけど…でも…」 戸惑いがちだった顔が一気に輝いたが、申し訳ないと言い淀む。 俺は優等生ぶっているが、それが理由でこんなことを言い出したわけじゃ無い。だから遠慮してないでさっさとプリントを寄越せ。時間の無駄だ。 いつまでもグズグズしてある遠藤にそう言ってやりたくなるが、グッと堪える。 「気にしなくていいよ。榎本くんのこと怖いんでしょう?それに部活もあるだろうし。僕今日の放課後は何もないんだ」 「え、えっと…じゃあ、柳楽くんが良いなら…お願いしても、いいかな?」 それらしい理由を並べれば、申し訳なさそうにしながらも頼んできた。助かった、っていう感情がダダ漏れだけどな。 プリントを受け取って、屋上へ向かう。久々に1人で食う飯は、ものの3分で終えてしまった。 いつもなら榎本が話しかけてきて、その度に俺も口を止めるもんだから、1人の時より全然進まないんだよな。 前までの俺なら睡眠時間が減って馬鹿らしい、なんて言っていただろうが、今はそんな風には思わない。 むしろ早くあいつが…って、何言ってんだ。アホか。 放課後、何度も謝罪と礼を繰り返す遠藤を適当に流して、教室を出る。 「柳楽くんやさしい〜」 「私も休んじゃおっかな〜」 「え、来てくれるなら風邪引いてもメイクしてなきゃ!」 周りはアホなことを言って騒いでいるが、生憎俺は優しいわけでもなければ暇人でもないので、お前らが風邪を引こうとガン無視するけどな。 頭のめでたい奴らに若干イライラしながら心の中で暴言を吐いているうちに、榎本の家にたどり着いた。

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