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第2章 榎本家攻略? 1 side 柳楽遊衣

榎本の家はいたって普通の一軒家だった。親が出て来るかと思いインターホンを鳴らして身構えたが、物音ひとつしない。優等生ぶるつもりだったためになんだか拍子抜けだ。 母親はパートでもしているのだろうか。まだ4時だから帰って来ていない可能性は十分に有り得る。 おそらく榎本は寝ているんだろうけど…なんとなく嫌な予感がして、ドアノブに手をかけた。開くわけないだろうと思いつつも動かすと、予想外に扉は開いた。 鍵もかけないなんて不用心だな…。勝手に家に入ろうとしている俺が言うことでもないが。 「なっ」 榎本の家は玄関からすぐ左に曲がるように出来ていた。左に繋がる廊下には、榎本が倒れていた。 「おい、大丈夫か」 「ん…」 目は虚ろで頰は赤い。よほど熱が高いのだろう、薄ら開かれた瞳には涙の膜が張っていた。 いつもとはかなり違う榎本の姿には何かくるものがあったが、今はこいつをベッドへ連れて行かなければ、と思い直す。 側にはビニール袋が落ちていて、その中には薬とプリンが入っていた。…こいつ、こんな状態で買い物に行ってたのか。 まともに歩けそうもない、と言うより立てそうにもなかったので、膝裏と首下に手を差し入れ抱え上げた。 「部屋どこか言えるか」 「二階…」 いつもよりゆったりした喋り方をする榎本に、クイと服を引っ張られた。 「なんで…柳楽…?」 「プリント届けにきた。…お前、何か食ったか?」 いいや、と首を振る。食欲は無いんだろうが、栄養を摂らないと治るものも治らない。 台所を借りるぞ、という言葉に頷いた榎本は、ベットに降ろすと寒そうに身震いした。 布団をかけてやり、離れようとすると榎本は寂しそうな顔をした。仕方ないから寝付くまで側にいることにして腰を下ろす。ここにいるから、と頭を撫でると嬉しそうにその手を握られた。 熱に浮かされた笑顔にドキリと心臓が音を立てた。いつもの鋭い目付きはどこへやら、完全に心を許しきったような表情をしている。 一度意識すると、浅い呼吸も潤んだ瞳も上気した頰も色っぽさを増幅させるだけで、こいつは病人だと表すものではなくなる。 汗ばんだ肌に理性が揺らいだが、瞬きをして流れ落ちた榎本の涙を見て我に返った。何考えてんだ、俺は。 自分を落ち着かせるために、もう一度頭を撫で、早く寝ろ、と声をかける。 少しして寝息を立て始めた榎本の指をそっと外して、何か食べ物を作るために一階へと降りた。

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