「それで、今日はわざわざお見舞いに来てくれたの？」 お構いなくと断ったが、姉の方がお茶を出してくれたので仕方なくソファーに座った。 なんだこの状況、面倒くさい以外の何物でもない。 何故榎本本人もいないのに、こんな変なやつらに俺が囲まれないといけないんだ。 「榎本くんが学校を休むのは初めてだから心配で…。それと、月曜日までに提出のプリントもあったので届けに来ました」 「ありがとう、あの子慣れない人には無愛想だから柳楽くんみたいな人がいたら安心するわ」 先程目が血走っていたのが嘘かのように穏やかに榎本の姉…那嘉音は話を続けている。 あれは花粉症か何かだったのか？こっちは案外マトモな様で安心していると、妹の紗里が話しかけて来た。 「姉上様…紗里はそろそろ我慢ができませぬ！本題に入りましょう！！」 「本題？」 「そうね…ちょっと待って、深呼吸させて」 紗里の言葉に顔つきを変えた那嘉音は、いきなり鼻息を荒くさせたかと思うと、スーハー言いだした。 前言撤回、ただの不審者だ。 「ええと。それで、柳楽君はいつからトウヤと付き合っているの？」 若干早口になったせいで聞き間違えたかと思った。 が、先程榎本の彼氏がどうとか言っていたし…どうやらこの2人は俺たちが恋人だと思っているらしい。 「どこで誤解したのかわかりませんが…僕達はそういう関係ではありませんよ。ただの友人です」 ニコリ、と微笑むと妹が興奮したように食いついてきた。カッと見開かれた瞳には何か鬼気迫るものがある。 「そんな訳はございません！私は先程見たのですから！！兄上様がお兄ちゃんに熱いキッスをかますところを！！！」 「ッ！ゴホッゴホッ」 飲んでいたお茶を吹き出しそうになるのを堪たら噎せてしまった。完全に変なとこ入った。 まずい。さっきの見られたとは思わなかった。 いつから榎本の部屋の前に突っ立っていたのだろうか、気付かなかったのは俺の落ち度だが…。 ここで付き合っていないと主張を続ければま俺はただのセクハラ野郎になってしまう。 かと言って榎本の彼氏だなんて言えば後から面倒なことになるのは免れないし…。 「紗里、それは早とちり過ぎるわ。この2人はまだくっつく前なのよ、付き合う前の甘酸っぱい関係なの…！トウヤはそういうことには鈍いだろうから、柳楽君も大変ね…」 「…そうでありましたか！これは失礼しました、兄上様。今はまだ兄上様の片思いなのですね…。あの熱いキッスは気持ちを抑えられずやってしまったこと！寝ている間にというのがなんともいじらしい…。いつかお兄ちゃんも自分の気持ちに気付きます故、今は辛抱の時ですよ…！」 心の中で解決策を考えているうちに、この姉妹は勝手に自己完結していつの間にか話が終わっていた。 本当頭ブッ飛んでんな。 とは言えあながち言っていることは間違いではないのだが、俺と榎本は別に甘酸っぱい関係でも何でもない。 完全に妄想を押し付けてきてはいるが、この姉妹は俺と榎本が付き合うことを望んでいるようだ。その点については家族から否定されるよりはいいか、と放っておくことにした。