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第2章 榎本家攻略?5

月曜日、久しぶりに登校しても俺に声をかけてくるやつはいない。むしろヒソヒソと「仮病終わったんだ…」なんて言葉が聞こえてきた。 こちらをチラチラと見てくる視線がウザくて、天気の良い朝なのに眉間に皺が寄る。舌打ちをすると、すぐにみんな目を逸らした。 「柳楽くんおはよ〜」 「今日もかっこいいねぇ!」 俺がイライラしているうちに柳楽が来たようだ。相変わらず黄色い声を浴びて、にこやかに対応している。 どうせ心ん中では人に言えない程酷いこと考えてんだろうな。本音を隠してあの完璧な笑い方をする術、教えて欲しいくらいだ。 そもそも俺が笑いでもしたら、頭がイカれただのサイコパスだの言われそうな気がするけど。 しょうもない事を考えていると、ふと柳楽が俺の視線に気づいたようで目があった。どうせいつもみたいに他人のように振舞うんだろうと思っていると、柳楽はニコリと微笑んだ。 「…え」 「おはよう。体調はもう大丈夫?」 そのままこちらに歩み寄ってきて、そう聞かれる。話し方は王子モードのままだが、教室で喋りかけてくるなんて。 「あ、あぁ。お陰様で」 突然で驚いたもんだから、素っ気ない返しになってしまった。だが柳楽は気にしていないようで、ニコニコとこちらを見つめて笑顔のままだ。 「良かった。病み上がりだから無理しないようにね」 「ありがと。…礼持ってきたから、昼」 そういえば弁当持ってきたこと言っとかないと、コイツ売店行っちゃうじゃん。前もって連絡しときゃ良かった。 そう思いながら伝えると、柳楽は少し驚いた顔をした。そのあと一瞬、綺麗な笑顔を浮かべて、礼を言ったあと自分の席に戻っていった。 …びっくりした、アイツあんな笑い方もできんだな。 王子モードの時とも違う、人を見下してる時とも違う、ただただ純粋な笑顔のアイツなんか見たことなかったから、不覚にもドキッとしてしまった。 そんなに弁当楽しみだったんかな。そう思うと、俺もなんとなく嬉しくなった。

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