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第3章 関係の変化 side 榎本トウヤ
休み時間、トイレから教室に戻ると柳楽が女子に囲まれていた。
何を話しているのやら、珍しく苦笑いをしている柳楽の前を通り過ぎようとした時、その女子に呼び止められた。
「ね、ねぇ、榎本くん!今日よかったら、お昼一緒にどうかな?」
「え」
「榎本くんと遊衣と私たち3人で!今柳楽くんも誘ってたとこなんだ〜!」
「えっ…と?」
まさか俺たちが毎日屋上で一緒に昼飯を食ってること話したのか?
…いや、秘密って約束したわけでもないし、それがバレて何が困るってわけでもないんだけど。
だけど、何となく周りには知られたくなかった。俺達だけの時間だと思ってたのに。
…いやいやいや、何気持ち悪いこと言ってんだ俺。
柳楽と昼飯を食べるためなら俺がいても構わないのだろう、期待した顔で3人が見つめてくる。
何でそんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ。モテるなら1人でモテとけよ。
「ほら、榎本くん困ってるでしょ。やめとこう。大勢はそんなに得意じゃないよね?」
にこやかに笑ってそう言った柳楽に、何故か無性に腹が立った。
俺が困ってるから?
じゃあ、柳楽自身はそいつらと飯食いたいわけ?
俺が断ったら、そいつらと4人で昼休み過ごすんだ。
「…………別に」
断ろうと思っていたのに、気付けば口が勝手に動いていた。
「え」
「ほんと〜?!じゃあいいよねっ!楽しみ!教室でいいかな?」
「……ああ」
「決まり〜!早くお昼になんないかなぁ」
驚いた顔をする柳楽は無視した。嬉しそうに笑う女子には申し訳ないけど、今日の昼休みは憂鬱なものになりそうだ。
モヤモヤしたまま迎えた昼休み、俺が柳楽に作った弁当を女子3人がやたらと褒めてくれた。
1番感想を聞きたい相手からは、弁当を渡した時のありがとうしか言われていない。
うまいとか、一言だけでも何か言ってくれればいいのに。
そう思って柳楽の方を見てみると、どこか上の空な気がしたものの、いつも通り女子にフェミニストな対応をしていて、余計にモヤモヤしてくる。
「榎本くん、ちょっといいかな」
「…?ああ」
俺が不機嫌なのを察したのか、昼休みの終わりに柳楽に連れ出された。
多分、方向的に屋上に向かってるんだろうけど、授業開始のチャイムが鳴り始めて引き止める。
「おい、どこまで行くんだよ。授業始まる」
やっと止まってこちらを振り向いた柳楽は、なんでかスゲェ怖い顔をしていた。無表情にも見えるんだけど…。
イケメンが怖い顔したら、普通の奴の数十倍は恐ろしいんだな…としょうもないことを考えて気を紛らわしてみても、ジッと見つめてくる視線はビシビシと体に突き刺さる。
「な、何」
「…」
「……何か、怖いんだけど」
こちらを見つめながら近づいてくる柳楽が恐ろしくて、思わず後退る。だけどとうとう壁まで来てしまったようで、背中にコンクリートの冷たさが走った。
柳楽、怒ってんの?なんで?
むしろ俺の方が怒りたいところなんだけど。
「…どういうつもり」
「な、何が?ていうか、顔近い」
鋭い視線が送られてくることにも、端整な顔が至近距離あることにも耐えられなくて、顔を逸らした。
なのに顎から頰の辺りを掴まれて、強制的に柳楽の方へ向き直させられる。
やっぱり、本気で何か怒っているらしい。力加減でそう感じた。掴まれている顔が地味に痛い。
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