29 / 41

第3章 関係の変化 4

"いや〜だって釣り合わないでしょ。自分の顔も立場も考えた方がいいと思うな〜" あの言葉は俺ではなく、土曜の誘いをかけてきた2人に向けられたものだったことは分かってる。 だけどそれは、見当違いな意見だ。 彼女達は普通に可愛いと思うし、身なりにも気を使っていて、釣り合わないところなんてない。 寧ろそんなことを言う奴の方がどうかしてる。 昼休みの3人に言ったことは少しキツかったかもしれないが、間違っているとは思わない。 本当に釣り合っていないのは、俺の方だ。 彼女達の言葉を聞いて、自分の思いを自覚した。 俺は柳楽が好きだ。 だから昼休みも、あんなことでイライラしてしまったんだ。 これまでのモヤモヤした気持ちにも全て納得がいく。 目付きが悪いとか傷が多いとか、そんなことを気にする前に俺は男なわけで…。 "身の程を弁えろ" この言葉が、俺の胸に深く突き刺さっていた。 いつもより早い時間、家に着くと何故か姉ちゃんがいた。今日はもう少し遅いって言ってなかったっけ。 「あら、早かったのね。おかえり」 「ただいま。姉ちゃんこそ早くね?」 「休講になって暇になったの。…それより、何か元気なくない?」 「…いや、別に」 我が姉ながら、勘の鋭さは天下一品だ。否定しても全く信じていないようで、ジリジリとにじり寄ってくる。 「昔から機嫌が悪いと"別に?"ばっかり言う癖気付いてる?エリカ様かってツッコミたくなるわよ」 クスクスと笑う顔は気品に溢れて美しい。 美人という言葉は彼女の為にあるのかと思わせる程綺麗な姉に、ウッカリ言葉を漏らしていた。 「…いいな」 「…ん?」 俺も姉ちゃんみたいな女だったら、柳楽の隣に並んでもおかしくないんかな。 深く溜息を吐いた俺に、姉ちゃんはハテナを浮かべている。 「何がいいって?」 「…別に」 「…だから、エリカ様かっての!」 「エリカ様?」 「いやさっきの話聞いてないんか〜い」 白目を剥いた変顔でツッコミを入れる姉に、こんな風になりたいと思うのは血迷ったな、と思った。 「ま、着替えたら降りてきて」 「いいけど…何?」 「ちょっと晩酌に付き合いなさい」 「いや、まだそんな時間じゃねぇ〜…」 ほんと、中身はオッサンだよな。 悪態をつきながらも部屋着に着替えた後リビングに向かう自分は、もしかしたらシスコンなのかもしれない。 …いやいやいや、ないから。

ともだちにシェアしよう!