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第3章 関係の変化 5

「あんたも飲む?」 冷蔵庫からビールを取り出していた姉ちゃんが、俺にも同じものを渡してきた。 「高校生の弟に酒勧める姉がいるかよ」 「高校生ならもうそんなもんよ。嫌なことあった時は飲んで忘れる!これ常識」 ま、要らないなら全部私が飲むけど。なんて言う姉ちゃんの手からビールを奪った。 少しくらいならいっか。 姉ちゃんお気に入りのおつまみを広げて、ビールの缶を合わせた。 「カンパ〜イ」「乾杯」 ゴキュッゴキュッと喉を鳴らして、勢い良く姉ちゃんがビールを飲んだ。 「いい?トウヤ、ビールは勢い良く飲むことが大事なの。のどごしよ!ちろっと舐めて苦〜い、なんて阿保な飲み方だからね」 「わかった」 姉ちゃんを真似て腰に腕を当て、コーラをガブ飲みする感覚でビールを傾ける。 「…結構うまいかも」 缶を口から離せば鼻をほんのり苦い香りが突き抜けたが、麦のまろやかさも感じてそこまでキツくはなかった。 「ハッハッハ!そうであろう!何たってお姉様が商店街のくじで当てたビール10本セット!発泡酒じゃないんだぞ!」 姉妹揃ってクジ運強いな。紗里がこの前くれた水族館のチケットもクジの商品だったはずだ。 喧嘩した…っていうのか?こんな気まずい状態になってしまった以上、柳楽と行ってこいと渡されたあのチケットを使うことはもうないだろう。 それどころか、もう屋上で一緒に昼休みを過ごすこともなくなってしまう気がする。 「また暗い顔して。言いたくなったら聞くから、それまでは私の愚痴聞いてよね」 「はいはい」 なんだかんだ優しい姉ちゃんが大学やバイトの愚痴を溢す。それがヒートアップするのに比例して酒の量も増えていった。 今日は母さんもパートで遅いし、紗里も友達と約束があるらしく、俺たちを止める人もいない。 ハイペースな姉ちゃんに合わせて飲んでいると、すぐに酔っ払ってしまった。 「でさぁ!その大学の先輩がしつこいのよ!『橋下くんには那嘉音ちゃんは勿体無い!僕の方が君に似合うと思うんだ』とか気色悪いこと言ってさぁ」 「自信過剰すぎるなぁ、その先輩。ヒック」 「でしょ?!私が決めた人なんだから超お似合いだっつ〜の」 俺も、柳楽がそんな風に言ってくんないかなぁ。そしたら性別とか気にせずにいられんのかも…。 …いや、でもまず俺は柳楽の恋愛対象じゃないから。夢に見るだけにしとかないと。 「そろそろ酔っ払ってきたでしょ〜?ほら、言うてみ!お姉ちゃんに愚痴言うてみ!」 「…姉ちゃんはさぁ、綺麗だからうらやましい。釣り合わないって言われるの、かなり辛いと思うよ」 「ん?いや、私の話じゃなくて〜。…って、もしかして、釣り合わないって言われたの?」 「いや、言われてないけど、実際そうだから。……はぁ。飲も。ヒック」 自分で言って悲しくなって、本日5本目のさっき開けたばかりのビールを一気に飲み干した。 「…え、相手は勿論柳楽くんよね?この感じだと変な方向に拗らせてる…?」 「何ブツブツ言ってんの?てかもうビール無いんだけど」 新しいビールを求めて冷蔵庫を開けたが、そこにはもうアルミの缶は置いてなかった。 「おっし、じゃあこの前お土産で貰った日本酒飲み比べセット開けるべ〜!…これはベロベロにして話聞き出すしかないな」 たまにブツブツと独り言が混じる姉ちゃんは気持ち悪いけど、まあいつものことなので気にせずに飲み続けた。

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