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第4章 酒に飲まれろ side 柳楽遊衣

あれから帰ってきて部屋で寛いでいた時、突然スマホが鳴った。 どうせまたどうでもいい女からの電話だろう。 今は優しく受け答えしてやる気分でもなくて、着信を切ろうと画面を見た時は目を疑った。 だって、まさか榎本から電話がかかって来るなんて思わないだろ? 何の話か…事態が読めないが、通話ボタンを押した。 「もしも…」 「あっもしもしぃ〜?柳楽エセ王子さんですかぁ〜?」 「は?」 誰が聞いても酒に酔っているのがわかる声で話しかけてきたのはどうやら榎本の姉の…那嘉音とか言ったっけ。…らしい。 なんで榎本のスマホからアンタが連絡してくるんだよ、と聞くまでもなくテンションの高いままベラベラと喋ってくれた。 「いや〜帰ってきたら妙にトウヤが落ち込んでるもんだから、憂さ晴らしに一緒に飲んだら酔っちゃって〜。ベロベロのトウヤから話全部聞いちゃいましたっ!てへっ」 未成年の弟に酒飲ますなよ、クソ姉貴が…。 どうやら榎本はかなり酔っているらしく、今日の話だけでなく実は俺がクソみたいな性格だとかいうことも全て話したらしい。 アイツ、余計なこと言いやがって…。そうは思いつつも、前に榎本の家であの姉妹に会った時に薄ら寒い感じはしていたので、言わなくても何となくバレていたんじゃないだろうか。 「…それで、わざわざそんなこと言うためにかけてきたんですか?」 何もかもバレているのに取り繕う気はしなくて、素っ気なくそう言うと何故か電話越しで歓声が聞こえた。 「キャ〜!出た〜本性出た〜!」 「腹黒冷酷俺様ドS王子やばみざわ」 隣に妹までいるらしく、相変わらずな理解不能な喋りが聞こえる。 「ちょっかいかけるために電話したんじゃないわよ、失礼ねぇ〜」 「…じゃあ何ですか?」 「あ〜この冷たさゾクゾクする…。今から家来れない?今ならトウヤベロベロに酔ってるから本音聞き放題よ♡」 最初に聞こえた気持ち悪い呟きはシカトした。家に来いと誘うその声はいかにも楽しそうで…絶対面白がってるだろ。 だがその誘いは魅力的で、このまま土曜を迎えるくらいなら今すぐ会いたい。 「あの子考えすぎちゃうところあるから、誤解は早めに解かないと面倒よ〜。トウヤが好きならさっさと来なさい」 「…今から行ってご迷惑じゃないですか?」 「まだ8時前だから気にしなくていいわよ。…あ、9時頃にお母さんとお父さん帰ってくると思うから、気まずかったら早めに来なさいね〜」 じゃ、と電話はすぐに切れた。 すぐに家を出て榎本のところへ向かう。 電車で一駅、さほど遠くなく家を出て15分もあれば着く距離なのに、その時間がもどかしかった。

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