ようやく家について、急いだ為に少し弾んだ息を整えていた時、榎本のデカい声が聞こえて来た。 「クソバカ柳楽のド軟派野郎〜！！」 …アイツ、いい度胸じゃねぇか。 何を思ってそう言ったのかは知らないが、俺にそんな暴言を吐いたことに対して仕置は確定だな。 ていうかどんだけデカい声で叫んでんだ、と呆れながらインターホンを押す。 バタバタと走る音がして、荒々しくドアが開いた。騒がしい家だな…。 「兄上様っ！お待ちしておりましたぁ！！今日こそお兄ちゃんをゲットゲット♡ですね？！」 「…」 「シカトキターーーー生で見る本性ギャン萌えーーーー」 出迎えてくれた妹の紗里は、廊下を歩いている間もずっと1人で騒いでいた。 もはや何を言っているか全く理解できないので全部無視しておくことにする。 「誰かくんの〜？紗里の友達ぃ？」 「クソバカでド軟派野郎の柳楽くんですけど」 「ひっ」 リビングから漏れてきた声に返事をすると、間抜けな声を出した榎本が青褪めていた。 そのビビリ様が面白くて、揶揄うように怒ったような表情をすると余計に顔色が悪くなっていく。 「あ〜キンタマ小さい男が来たぁ〜」 「は？」 「だから姉ちゃん！柳楽は絶対デカイってぇ〜」 「…」 何言ってんだ、この女…。どういう話からそうなったのかは知らないが、こいつが相当頭がおかしいことだけは分かった。 いきなり下品なことを言った那嘉音はヘラヘラと笑い、先程まで青褪めていた榎本はどこへやら、それに呆れながら返事をしている。 …呆れたいのはこっちなんだけど。 色々と気になるところはあるものの、そんなことを一々この酔っ払い達に聞いていたら話が進まない。 「…で、話って？」 「え、俺〜…？話って…何、もしかしてテレパシ〜？！」 何がテレパシーなのかは分からないが、どうやら榎本は俺が来ることを知らされていなかったことは分かった。 那嘉音にギャーギャーと文句を言っている榎本は、どうやら姉には勝てないらしい。 榎本は結局言いくるめられ、溜息をついたあとにフラフラと立ち上がった。 「トウヤぁ、ちょっと冷静になってきてるだろ〜…そんなんじゃ本音で語れん！ほれ、この最後の一杯飲み干していきな！カンパイ〜ヒック」 立ち上がるだけでもフラついた弟に何を言ってるのか、那嘉音がグラスを榎本に渡しグラスを合わせ音を鳴らした。 アホか、それ以上飲んだら吐くんじゃ…。 と思ったが、俺と紗里が止める間も無く2人はそれをグビグビと一気に飲み干し、余計に顔を赤くしている。 「ちょっ…姉上ぇ！これ芋！芋ロックですけどぉ？！あ、兄上様これ持ってってくださいお水！」 「…はぁ。ありがと。ほら、お前の部屋行くぞ」 「んん〜…ヒック」 気の利く紗里が素早く冷蔵庫から水を出し、焦った顔で渡してくれた。 お前はコイツらみたいな酒飲みになるなよ…。 礼を言って、フラフラと立っているのもままならないような榎本の腕を取り、コイツの部屋のある2階へと上がった。