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第4章 酒に飲まれろ 3
「ここが俺の部屋〜」
ヘラヘラと案内する榎本は正直スゲェ可愛い。
酒のせいですでに眠いのか、少し潤んだ瞳が少し潤んでいる。頰は赤く染まって唇も少し開いていて、誘っているとしか思えない。
周囲から怖いと恐れられている榎本は何処にもおらず、こちらの欲を煽ってくるばかりだ。
今日は話をするために来たんだ。自分を落ち着かせて榎本に話しかけた。
「…で、何であんなに俺の悪口言ってたわけ?」
「えっと〜…、とりあえずほら、座ろう?」
俺の質問には答えず、榎本はクイと服の裾を引っ張って俺を誘導しようとした。
…クソ、人の気も知らないで……。
こちらを窺うように若干上目遣いでそんな仕草をされたらたまったもんじゃない。
「クソでバカなド軟派野郎に教えてくれない?」
「い、いや…それはその…」
つい距離を詰めてしまったことは許してほしい。こいつが煽ってくるのが悪い。
心の中でブツブツと言い訳していると、俺の質問にまた俯いていた榎本が突然爆発したように喋り出した。
「何でって?そんなの俺が聞きたいよ!何で俺が怒られるわけ?!今日の昼休みだって嫌ならハッキリ断ればよかっただろ!どうせ本当は自分だけ女子独占したかったんじゃねぇの?!」
…は?何行ってんのコイツ。
「…何でそうなるんだよ。お前こそ珍しく女に誘われたからって嬉しかったんじゃねぇの?」
「は?!俺は別にそんなんどうでもいいし、お前と屋上で弁当食べるの楽しみにしてたのに!だけどお前が女子と一緒がいいのかと思ってOKしたら怒られて意味わかんねぇ!」
…へぇ。
お前と屋上で弁当食べるの楽しみにしてた、ねぇ…。
今日の昼はあれだけ榎本にムカついていたのに、そのことを聞いて一気に機嫌が良くなってしまった。
どうやら俺はかなり単純な奴らしい。
それにしても俺が女を独占したいと思ったとか、こいつもかなりアホなんだな…。
最初に屋上で会った時、逃げてるって言ったの忘れたのかよ。
「弁当の感想だって聞けなかったし、教室から連れ出された時も超怖いし!挙げ句の果てにあの内の誰かとヤった?!そんなこと知りたくねーっつうの!」
…ていうか、コイツもしかして…妬いてる?
「あんな気まずくなった直後に遊びの誘いかけてきて…どうせまた女子にチヤホヤされて嬉しかったんだろ?!可愛い子が一緒なら別に俺がいてもどうでもいいのかよ!」
捲し立てるように喋る榎本の言葉は、彼女が彼氏を問い詰めるようなものと似ているような気がした。
「俺と仲が悪くなろうが…うぅ…柳楽にとっては、どうでもいいことなんだろ…」
最後に一言、ポツリと呟いた榎本が泣き出した時は、流石に驚いた。
コイツ、俺のこと好きなんだ。
そう確信して少しの間言葉が出なかった。
静かな部屋に、榎本の鼻を啜る音だけが響く。
…早く気付けば良かった。
過去の自分に溜息をついた後、グズグズと泣いている榎本を引き寄せ、抱き締めた。
「ごめん」
触れた身体から榎本の香りが漂ってきて、味わうように首筋に顔を埋めた。
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