「俺が悪かったから」 可愛い泣き顔も見ていたかったが…正直、普段あんなに鋭い雰囲気の榎本が弱っている姿は腰にクる。 このままじゃ手を出しそうで話をするどころじゃなくなりそうだ。 だから頼むから泣き止んでくれ、そう思い抱き締める力を強めた。 だがそれは逆効果だったようで、泣き止むどころか榎本は更に声を漏らし泣き続けてしまった。 あー…これはもう、暫く泣き止むのは無理そうだな。 余計に崩れた表情にそう悟って、頭を撫でてやる。 「なんで謝るんだよ…別に柳楽大して悪いことしてないだろ…」 「あんなに怒った癖になんだよそれ」 変なことを言い出す榎本にケラケラ笑っていると、涙目のまま不満そうな顔でジロリと見つめてきた。 だからその顔…襲われても文句言えねぇぞ。 無自覚な榎本につい溜息が溢れそうになる。 代わりに少し、意地の悪い言い方をして榎本にもう一度謝った。 「榎本が妬いてんのに気付けなくてごめん」 「…なっ？！や、妬いてなんか…！」 「俺が女といたいと思ってるとか勘違いして怒ってたんだろ？それってやきもちじゃん」 「ナルシストか！なんで俺が柳楽にやきもちなんかっ…」 なかなか認めようとしない榎本はいつの間にか涙が止まったらしく、今は赤い顔をしながらも焦ったように言葉を紡いでいる。 「違うの？俺は妬いたけど」 「…え、」 「榎本のこと独占したかった」 「な、何言ってんだよ」 「なのにお前がアイツらも一緒でいいとか言うから腹立った」 「腹立ったって…」 榎本が正直に言わないのなら俺が言おうと、ジッと目を見つめて話していると、段々と言葉が少なくなっていく榎本はとうとう俯いてしまった。 下を向いたまましばらく黙っていたが、もう1度ゆっくりと俺を見上げてきた榎本は、熱に浮かされたような顔をしていた。 「…なんで？なんで、俺に嫉妬すんの…？」 早く答えをくれ、と言わんばかりに榎本の唇が小さく震え、つい手が伸びそうになる。 期待しているような、だけど不安そうなその瞳に揶揄いたくなって、はっきり好きだとは言わずに言葉を濁した。 「それ、わかってて聞いてんだろ」 涙の跡が光る上気した頰を、焦らすようにスルリと撫でた。 「そんなに期待した目で見つめて、何て言って欲しいの？」 あんまり揶揄うとまた怒られるかな、そう思っていたのに、榎本は予想外の行動に出た。 ジッと俺の目を見つめたまま勢いよく近付いてきたその顔は、触れる直前で速度を落として、そっと唇が重ねられた。 まさか、榎本が自分からキスしてくるなんて…。 一瞬驚いたが、柔らかいその感触に欲望が掻き立てられて、より深く口付けた。