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第1章 噂の2人 3

色々とガサツな母さんも料理だけはうまい。 父さんは胃袋を掴まれたのか今も母さんにベタ惚れで、やかましい夫婦だ。 少し焼き目のついたふわふわの卵焼きを頬張っていると、ガチャリと鍵を開ける音がした。 「…え?」 誰か来たのか?鍵を持ってるやつなんて、教師くらいしか…見つかったらダルいな、これ。 「…はぁ」 心底疲れたような大きい溜息が聞こえて来た。この声、なんか聞いたことある気がする。 「どいつもこいつもうるせぇんだよ、雌豚が」 雌豚?!驚くほど口悪いなこいつ、俺人生で人に対して雌豚とか言ったことねぇよ。教師がそんな発言マズイだろ。 この声誰だっけ…?好奇心を止められなくて、コッソリ貯水タンクの上から覗き見た。 「……っマジで?」 「あ?」 バカか俺は!思わず漏れてしまった声を遮断しようと口を押さえたけどもう遅い。こちらを見ている無機質な目と俺の目は合ってしまった。 「………」 「………」 お互い無言の時間が流れる。えっと、これって秘密にしといた方がいいよな。そもそもアイツがこんな性格悪そうなやつなんて言っても誰も信じないだろ。 人前ではあんなに良い奴なんだし、隠して上手くやってるんだから。本音と建前ってやつだ、その差が激しすぎるだけだ。 この気まずい空気にも、鋭い眼光にもそろそろ耐えられなくなってきた。そりゃもうビシビシ身体に刺さるよ、視線が。 広げていた弁当を片付け貯水タンクから降りて、屋上の扉を開けようとしたその時。 「待て」 何だよこの威圧感、最早王子じゃなくて魔王じゃん。 無視するわけにもいかず、ゆっくりと後ろを振り返る。先程群がる女子たちに向けていた笑顔は何処へやら、表情筋が全て切れたような顔をしたそいつは、噂の王子・柳楽遊衣だった。 「…別に誰にも言わねぇよ」 「言う相手いなさそうだもんな」 小馬鹿にしたように鼻で笑いやがった。 何て奴!人の好意は素直に受け取りやがれ! 実際柳楽の言ったことは正解なんだけど。こいつの本性を再確認してしまった。 口止め以外にも何か用があるのか、柳楽はカツカツとローファーの音を響かせながら近づいてくる。 ただ歩いているだけなのに何故か優雅な雰囲気を醸し出す柳楽につい見惚れて、固まって動けなかった。 「…な、なんだよ」 「飯」 短く答えた柳楽は俺の傍まで来ると座り込み、食堂で買ったであろうパンを取り出した。 あ、一緒に食べんの? 貯水タンクに凭れかかる柳楽の隣に座り、再び弁当を広げた。

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