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第1章 噂の2人 4

「誰かと約束してるって言ってたの嘘かよ?」 「ああ。あんな香水臭い奴の隣で飯食えるわけねぇ」 悪びれる様子もなく吐き捨てた柳楽は、普段見ている王子とは別人のようだ。あんなにキラキラしていると思っていたのに、瞳なんか死人のそれのように濁っている気がする。 背筋はピンと伸ばされあんなに綺麗だった姿勢も、今じゃだらしないと思う程の猫背になっている。 「お前、なんでここの鍵持ってんの」 「少し前に旧校舎ウロついてたらたまたま落ちてるの見つけた。適当だよな、この学校」 「チッ…ミドリのやつ」 今更エセ王子の柳楽が舌打ちしたくらいじゃ驚かねぇけど、言葉の意味がよくわからない。 「…ミドリって養護教諭の?」 「…ああ」 生徒からはミドリちゃんと呼ばれ親しまれている彼女は先月から産休に入った。 24歳で、小悪魔っぽさを感じさせるルックス。 若くて美人な保健の先生がモテないわけがなく、生徒から大人気だった。 「ミドリ先生がどうしたんだよ」 「多分アイツが落としたんだよ、その鍵。無くしたとか言ってた」 「へぇ。仲良いの?」 「別に」 適当にしか答えない柳楽のせいで2人の関係はイマイチ分からなかった。でも鍵落としてくれたミドリ先生には感謝だな。 そのおかげで俺は安息の地を手に入れられたんだから。 「お前こそどうやってここ入ったんだ?」 「…さあな」 人には聞いといて自分は言わねぇとかなんなんだよ全く。だけどダルそうな柳楽を見ていたら問い詰める気も無くなった。 飯を食い終わってダラダラしているとチャイムが鳴った。だが柳楽は一向に立ち上がろうとする気配を見せない。 「行かねぇの?」 「…行かない」 でもお前、みんなの前では優等生でいなきゃいけないんだろ? サボりなんてしたらイメージ崩れんじゃね? 疑問が顔に出ていたようで、柳楽が口を開く。 「俺が体調崩したつって信じない奴なんかいねぇ」 そりゃその通りだ。優等生にはそんな特典あんのか、うらやましいなコラ。 授業受けないで成績は大丈夫なのか?って聞こうと思ったけど、また鼻で笑われそうだからやめた。 俺もなんか気怠くてサボりたかったけど、生憎優秀な頭は持ち合わせていない。 授業を聞いていないとテストが悲惨なことになりそうだ。 貯水タンクに凭れて座った姿勢のまま眠り始めた柳楽を残して、屋上を後にした。

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