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第1章 噂の2人 5

教室のドアを開けると、視線が集まってきた。 屋上に戻りたくなる気持ちを堪えて席に着く。 すぐ始まった数学の授業を聞きながらも、柳楽のことを考えた。 誰でも何かしら裏表があるっていうのは分かってるけど、さすがにこれには驚いたな。 よくあれほど本音を隠すことができるもんだと、ある意味感心する。 そうだ、そういえばアイツ女子のこと雌豚って言ってたんだぞ。 それを知らずに柳楽に纏わり付きキャーキャー騒いでる女子は可哀想なような、阿呆らしいような。 アイツも辟易してんだろうな、ああいう周囲の態度に。 いつでも、どこにいたって感じる視線や、聞こえてくる自分の話。 芸能人でもないのにプライベートを監視されているようなこの感覚。 俺の場合はまだいい。 だって周囲から視線を感じても、ウザいと睨めば全員焦ったように逃げていくから。 でも柳楽はそういうわけにもいかない。 なんであそこまで優等生演じてんのかは知らないけど、そのイメージを崩さないためにはイラついても声を荒げたりできないから。 大変だなー、柳楽。 アイツ、もしも本性バレたらどうなるんだろ。 俺みたいに白い視線向けられんのかな。 かなり酷い暴言吐くし、そんな気がする。 …と思ったけど、あの格好良さがあれば多少性格に難ありでも女子にはウケるんじゃね?美形は顔の良さでかなり得するからな。 妹の本棚に、ドS王子のなんたらとかいう少女漫画が並べてられていたのを思い出した。 ドS王子なんて言葉、柳楽のために存在してるんじゃ無いかってくらいアイツにピッタリだ。 もしかしてあの漫画の主人公のモデルお前か?ってくらい。 そもそもそんなもん読んでるって、自分のことドMって認めんのかよって妹にツっこんだら、 「女の子はみんなMなのよ!ドMなの!!Sっ気がある子でもそういう部分は必ず持ち合わせてるの!!!」 とかなんとか力説してたな。意味がわからん。 だから柳楽も、本性バレてもそんなに支障無いんだと思うんだけどな。 まあ、教師相手なら別かもしれないけど。 またいつか屋上で鉢合わせるかもなー、と思ったところで板書が進んでいることに気がつく。 柳楽のことを考えるのやめて、溜まった板書を消される前にと必死に写した。

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