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第2話 アンハッピーバースデー
写真立てを抱きしめているうちに、紫乃はひどく切なくなった。本当は藤城に抱きしめて欲しいのに、それは叶わない。触れて欲しくても、キスして欲しくても、すべて夢のまた夢。
そう、この恋は叶わない恋なのだ。写真の中の藤城が身につけているネックレスが、紫乃の心に影を落としていた。
紫乃は知っている。藤城がいつも身につけているネックレスに通された、“指輪”の意味を。小ぶりなそれは明らかに女性の指輪で、初めて見たときは思わず目が釘付けになってしまった。そんな紫乃の視線に気づいた藤城は、懐かしさと悲しみの表情を浮かべ、「形見なんだ。昔の、恋人の」と寂しげに笑った。藤城のそんな表情を見るのは初めてで、どう反応したらいいかわからなかった。
「女々しいだろ?」と笑って誤魔化そうとする藤城が痛々しくて、苦しかった。だが、それ以上に、指輪という形を借りて未だ藤城の心の中にいる“恋人”の存在が、羨ましかった。
そんな風に思うべきではないことは百も承知だけれど、どうしても、当時の紫乃には割り切ることができなかった。
胸が苦しくなって、紫乃は写真立てを元あった場所へ戻す。幸せな気分から一変して憂鬱になってしまった。何をやっているんだ、わかってたはずだろう、と自嘲するが、もう遅い。目の奥がツンと痛くなって、涙が溢れてくる。
頭の中では、泣くな、泣くな、と思っているのに、心が言うことを聞かない。上を向いて涙がこぼれ落ちないように固く目を閉じるが、それでも無慈悲な涙は頬を濡らした。
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