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第7話 ダッシュ

「結太、お前ほんと……自覚しろよ、マネージャーさんにも言われてただろ? もう移動はタクシー使えって」 「いいじゃん、別に。紫乃ちゃん先輩だって電車乗ってるんだし」 「俺はいいんだよ、結太みたいに顔売れてないから」  言っていて切なくなるものがあるが、確かに知名度はテレビに出ている結太の方が上だ。その自覚を、せめてかけらくらいは持っていてほしいものだ――結太自身のためにも。そんな風に思いながら、劇場までの道を歩く。  本当はタクシーを使いたかったけれど、あいにく小さな駅の周りでは見つけられなかった。それに、結太が「いい天気だから歩きたい」なんて言い出すので、仕方なく歩くことにした。 「で、結局ケーキは食べたのか?」 「ムリムリ! あのサイズは流石に半分が限界だった!!」 「半分は食べたんだ……」  ゆっくりと歩調を合わせて、二人で歩く。結構頻繁にあっているけれど、こういうのはすごく久しぶりに感じられて、嬉しかった。  結太と出会って七年くらいになるだろうか。確か結太が高校三年生で、十八歳の頃だったと記憶している。結太はデビューしたての頃から「紫乃ちゃん、紫乃ちゃん」とくっついてきて、一緒にダンスレッスンを受けたりボイストレーニングを受けたりしていた。初めての一人暮らしに戸惑う結太に、洗濯の仕方や簡単な料理を教えたのも、紫乃だ。 「結太って、昔は可愛かったんだよなぁ……」 「えー、何? 急に。俺って今でも可愛いでしょ?」 「……可愛くない。昔の純粋さが消えた結太は可愛くない……」 「そりゃ消えるよ、純粋さなんてさ。大人になった証だよ」  なんだそれ、と笑う。けれど、隣の結太は真面目な顔をしていて、息を飲んだ。 「……なんてね。それより紫乃ちゃん先輩、時間大丈夫?」  ハッとして時計に目をやると、気づけば入り時間の十分前だった。 「やばッ! 走れ、結太!」 「えー! 俺もー!?」  嫌そうに叫ぶ結太の首根っこを掴んで、紫乃は走り出す。  バッグが重くて走りにくいが、後輩に負けてたまるかと、必死になって劇場を目指した。

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