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第12話 Side:Yuta

 結太はチケットを片手に持ちながら、劇場の外で開場時間を待っていた。ぼんやりと、劇場の周りに集まっている人々を眺めている。全体的に、女性客が多い気がした。 「……舞台かぁ。一度でいいから、立ってみたいな」  ぽろりとこぼれたのは、結太の本音だった。実は結太は舞台のオーディションをいくつも受けている。けれど、演劇という世界から嫌われているかのように、どれだけ受けても落ちてしまうのだ。自分の実力のなさに、泣きたくなる。  『演劇はテレビドラマの世界とは違うんだよ』、『ルックスだけで芝居はできないから』。そんなことを言われ、へこんだこともあった。けれど、結太は諦めたりしない。 「……時間はかかってもいい。絶対、舞台に立つんだ」  結太をここまで奮い立たせるのには理由があった。  紫乃と同じ舞台に立つことが、結太の目標だったからだ。  結太は、一人の男として紫乃のことを愛している。出会った時から、ずっと憧れ、そして恋心を抱いていた。  けれど紫乃が見ているのは自分じゃなくて、違う人で、結太の視線には全然気づいてくれない。ある意味、ひどい人だと思っている。 「こんなにアピールしてんのに、全然気づいてくれないんだもんなぁ……」  さっき触れ合った額には、まだ紫乃の温もりが残っている気がした。 「やっぱ口にキスしとくんだった!」  叫んだ瞬間、通り過ぎていく人から奇異の目で見られたが、構うものか。結太は本気で後悔しているのだ。  紫乃の想い人――藤城輝の首からあのネックレスが消えていた。  楽屋に入ってきた藤城を見た瞬間、焦りでいっぱいになったのはそのせいだ。楽屋では、紫乃はまだ気づいていなかったようだが、一緒にいればそのうち気がつくだろう。結太はそれが不安だった。  もし、万が一、二人が結ばれたら?  これからもっと辛い思いをしていかなければならないだろう。  そんなのは、辛すぎる。 「……紫乃ちゃん」  こっちを見て欲しい。愛して欲しい。欲望ばかりが募っていく。  奪われる前に、奪ってしまおうか。どんな手を使ってもいい、紫乃が手に入るなら、どんなことでもしてみせる。 「――大好きだよ、紫乃ちゃん」  スマートフォンの待ち受けにしている、二人で撮った写真を見つめながら、結太は絞り出すような声で呟いた。

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