15 / 26
第15話 突然の
重苦しい沈黙に耐えきれなくなり、紫乃が席を立とうとした瞬間。遠くからスタッフの声が聞こえた。
「役者の皆さん、連絡事項があるので舞台の方に集まってくださーい!!」
大きな声が廊下に響き渡る。
よかった、これでこの場から去ることができる。紫乃は小さく安堵のため息をついた。
「……すみません、変なこと聞いてしまって」
「いや、別に……――」
「行きましょう、みんなを待たせちゃ悪いですから」
ペットボトルの蓋を閉める手が震える。これで本当によかったのだろうか。答えを聞かないままでいても、後悔しなかっただろうか。
ぐるぐると思考が巡るが、今はとにかく、舞台へ急がなければ。
「ほら、輝さん。早くしない、と……」
走り出そうとした瞬間だった。藤城の手が紫乃の薄い肩を掴み、強引に振り向かせ、そして。
振り向いた紫乃の唇に掠めるようなキスをした。
「――――ッ!?」
何が起きたのか、紫乃は理解できなかった。キスをされ、そのまま抱きすくめられて、ただただ呆然としている。
「あ、きら……さん……?」
「……これが、理由だ」
それだけ言うと、抱きしめていた腕を離して紫乃を解放する。そして、そそくさとその場から立ち去ってしまった。
「……えっ…」
間抜けな声しか出なかった。唇に当たった柔らかい感触がまだ残っている。
藤城に、キスをされた。それだけじゃない、力強く抱きしめられた。
そして。
「“これが、理由”……?」
紫乃はその言葉の意味をぼんやりとした頭で考える。
これが、“ネックレスを外した理由”なら、藤城は、まさか。
「そんな、ことって……」
混乱するのも無理はなかった。あまりに突然で、夢のようで、本当にこれが現実だとは到底思えない。
唇に手を当てて、紫乃は今起こったことを心の中で何度も反芻した。
ともだちにシェアしよう!