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第15話 突然の

 重苦しい沈黙に耐えきれなくなり、紫乃が席を立とうとした瞬間。遠くからスタッフの声が聞こえた。 「役者の皆さん、連絡事項があるので舞台の方に集まってくださーい!!」  大きな声が廊下に響き渡る。  よかった、これでこの場から去ることができる。紫乃は小さく安堵のため息をついた。 「……すみません、変なこと聞いてしまって」 「いや、別に……――」 「行きましょう、みんなを待たせちゃ悪いですから」  ペットボトルの蓋を閉める手が震える。これで本当によかったのだろうか。答えを聞かないままでいても、後悔しなかっただろうか。  ぐるぐると思考が巡るが、今はとにかく、舞台へ急がなければ。 「ほら、輝さん。早くしない、と……」  走り出そうとした瞬間だった。藤城の手が紫乃の薄い肩を掴み、強引に振り向かせ、そして。  振り向いた紫乃の唇に掠めるようなキスをした。 「――――ッ!?」  何が起きたのか、紫乃は理解できなかった。キスをされ、そのまま抱きすくめられて、ただただ呆然としている。 「あ、きら……さん……?」 「……これが、理由だ」  それだけ言うと、抱きしめていた腕を離して紫乃を解放する。そして、そそくさとその場から立ち去ってしまった。 「……えっ…」  間抜けな声しか出なかった。唇に当たった柔らかい感触がまだ残っている。  藤城に、キスをされた。それだけじゃない、力強く抱きしめられた。  そして。 「“これが、理由”……?」  紫乃はその言葉の意味をぼんやりとした頭で考える。  これが、“ネックレスを外した理由”なら、藤城は、まさか。 「そんな、ことって……」  混乱するのも無理はなかった。あまりに突然で、夢のようで、本当にこれが現実だとは到底思えない。  唇に手を当てて、紫乃は今起こったことを心の中で何度も反芻した。

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