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第20話 伝えたいこと
「送るよ。帰り、電車だろ?」
ようやくメイクを落として私服に着替えた紫乃は、藤城の申し出に甘えることにした。もらったプレゼントを一人で抱えて帰るのは難しそうだし、何より、もっと藤城と一緒にいたかった。
「ありがとうございます。助かります……!」
「荷物、持とうか?」
「大丈夫ですって。これくらいなら自分で持てますよ」
バッグを肩にかけ、パンパンになった紙袋とサブバッグを両手に持つ。これならちゃんと歩けそうだ。そんな時、ひょいっと紙袋を奪われて、紫乃は驚く。藤城が紙袋をひったくって、先に歩き始めたのだ。
まるでこれは……男女の恋人同士みたいだ。
ぎゅっと胸が締め付けられる。嬉しすぎて、言葉にするのは恥ずかしいが、すごくときめいてしまった。
十年だ。十年もの間、これは叶わない恋なのだと諦めていた。しかし今は違う。想いが通じ合った。喜びもひとしおだった。
「……ありがとう、ございます」
ドキドキしながらお礼を言う。「お前が持ってると、なんか倒れそうだからな」なんて笑う藤城が愛しい。たまらなく、愛しい。
けれど、紫乃にはまだ不安があった。
藤城の口から、好きだとか、愛しているだとか、そう言う言葉が出てこない。そして自分も、何も言っていない。言葉が全てだとは思っていないけれど、ネックレスのことだって、曖昧なままだ。
このままじゃダメだ。はっきりと口に出して、言葉にして伝えなければ。
「輝さん、あのっ――」
意を決して口を開いた紫乃の言葉に、藤城の言葉が被った。
「お前……こんな時間にどうしたんだ?」
前を歩いていた藤城が立ち止まる。誰かいるのだろうか?
藤城の背後から覗いてみると、はぁはぁと肩で息をする結太の姿があった。
もう終演してからだいぶ時間が経っている。ほとんどの役者が帰路につき、残っているのはスタッフ数名だと言うのに。結太は一体、何をしにきたのだろう。
「撮影が……あって、こんな時間になっちゃったけど……よかった、まだいた……」
汗だくになっている結太は、いつもと表情が違っていた。鬼気迫る顔つきで、ズカズカと近づいてくる。そして、藤城の後ろにいた紫乃の手を取って、その腕を引っ張った。
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