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第21話 トライアングル
「ちょっと……結太!? 何、いきなり……!」
「話あるからッ……!!」
「おーい、ちょっと待て、結太」
呼び止められて、結太は不機嫌そうに振り返った。
「何ですか、藤城先輩」
「悪いが、離してやってくれないか。その手」
「……嫌です」
「俺の紫乃から、手を離せって言ってんだ」
“俺の紫乃”と言う呼び方に、結太が反応した。そして鋭い目つきで藤城を睨む。こんな顔をする結太を、紫乃は見たことがなかった。
だが、藤城は怯む様子もなく、まっすぐ結太を見つめている。
「いつの間に、紫乃ちゃんがアンタのものになったんですか」
怒気を含んだ言葉に、藤城は笑って返す。「いつだろうなぁ。お前が知らない間なのは、間違いないな」と。それが若い結太の怒りに火をつけることをわかっていて、挑発しているようだった。
「ちょっと、二人とも落ち着いて……!」
「紫乃ちゃんも紫乃ちゃんだよ! 何やってんの……? あの人がネックレス外したから、チャンスだとでも思ったの!?」
藤城がネックレスをしていないことに結太も気づいていたのか、と紫乃は驚く。藤城も、感心したかのように「へぇ……」と呟いた。
紫乃を掴む結太の手に力が込められる。その手からは、絶対に離さないという意思が伝わってきた。すると、押し殺したような、絞り出した声で結太が小さく叫んだ。
「何でなんだよ……なんで、こいつなんだよ……! 俺だって紫乃ちゃんのこと大好きなのに……どうしてッ……!!」
「結太……」
ようやく、すべてが分かった。同時に紫乃は、自分がどれだけ鈍感だったかを気づかされ、目眩がした。
紫乃が藤城を想っているのと同じように、結太は紫乃を愛しているのだ。どうしようもなく、愛してしまっているのだ。
愛した人は、自分じゃない誰かを見続けている。それは、とても辛く、苦しいことだ。
結太の気持ちが痛いほどわかるから――紫乃はこれ以上何も言えなかった。
「……結太、ここじゃ人の目がある。話をするなら場所を変えよう」
藤城の提案に、結太も小さく頷いた。確かにここで言い争いをしていたら、スタッフたちに聞こえてしまうだろう。
三人は一様に押し黙ったまま、藤城の車へと向かうことにした。
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