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第25話 心を決めて
沈黙を派手に破ったのは結太だった。大袈裟なくらい腹を抱えて笑い始めたのだ。さっきまでの剣呑とした雰囲気はどこに行ったのか。そして紫乃は、未だに硬直している。
「あっはは、ヌいたって……! もー、そんなことまで暴露しないでくださいよー!」
「お前が先に言いだしたんだろ、男が駄目とかどうとか……」
「腹痛ぇー……ま、俺も人のこと言えませんけどねー……わー、ウケるー……!!」
「人のこと言えないって、お前もなのかよ!」
「甘く見ないでください、先輩。俺なんか、脱いでなくったっていけますよ?」
二人の大きな笑い声が響く。
誰か、この馬鹿二人をどうにかしてほしい。紫乃は心底そう思った。
「二人とも……そんなこと言われるこっちの身にもなってよ……」
額に手を当て、紫乃はどんなブロマイドだったか思い出す。確か、上半身裸で、下も際どいところまで下げていて……腹筋が綺麗だとか、腰が細いだとか、そんなことを言われながら撮影した記憶があった。
そんなブロマイドを見て、藤城は性的に興奮したと言うのだ。恥ずかしさに思わず顔が真っ赤になって、紫乃は藤城の顔を見られなくなってしまった。
「とまぁ……結局ソレで気づいたんだよ、俺は紫乃のことが好きなんだって」
「ウケる、藤城先輩マジでウケる!」
藤城は、「やっぱり言うんじゃなかった」、と小さく呟いた。だが、きっかけは何にせよ、紫乃のことを好きだと言う気持ちに変わりはない。
藤城は咳払いをして、話を元に戻そうとした。
「とにかく!! 結太が考えてるような、男だから無理だなんてことには絶対ならない。俺は紫乃を愛してる。……あとは、紫乃がどう思ってるか。それだけだ」
「俺もそれが聞きたい。俺だって紫乃ちゃんのことが好きで、幸せにしたいって思ってる。紫乃ちゃんが藤城先輩のことを好きなのは知ってるけど、それでも俺は、逃げたりせずに愛してるって伝えるよ」
二人の言葉に、紫乃は戸惑っていた。藤城も、結太も、自分を愛していると言っている。こんな日が来るなんて思いもしなかった。
藤城も結太も、紫乃にとってはどちらも大切な存在だった。藤城は憧れの先輩であり、結太は可愛い後輩だ。
だけど、紫乃が“愛している”のは、やはり藤城輝という男、ただ一人だ。
それを伝えたら、この先どうなってしまうのだろう。
紫乃はずっと想い続けてきた藤城と結ばれて、ハッピーエンドを迎えることができるかもしれない。
でも、そうしたら――結太はどうなる?
「…………っ」
辛い決断に、思わずかたく目を閉じ、俯いてしまう。
伝えなければいけない。それが、自分に告白してくれた二人への誠意だと、頭ではわかっている。だが、心がついてこなかった。
二人を前にして黙っている自分がどうしようもなく卑怯に思えて、苦しい。それでも、言わなければ。紫乃は震える手で痛む胸を押さえた。
「……大丈夫だよ、紫乃ちゃん」
不意に、背後から結太の柔らかな声が聞こえてきた。
「約束する。どんな結末になったって俺は変わらない。ずっと紫乃ちゃんを大好きでいるよ。だから、答えて。紫乃ちゃんの気持ち、俺たちに聞かせて」
「……結太」
その言葉を聞いて、紫乃はようやく決断することができた。
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