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第6話
それから季節が二つ過ぎ去り、厳しい寒さに指先がかじかむようになった。
その日は吹雪いていた。こんな日は客足も鈍い。
ぼんやりと荒れる外を眺めていた霞は、その天気がまるで月影のようだと考えていた。
月影は近頃様子がおかしい。
蕩けてしまうのではと危惧するほど甘やかに微笑む月影は一体どこへやら、近頃は憂いを帯びた表情で深いため息をついていることが増えた。
かと思えば強くもない酒を煽りその場で眠りの底に沈んだり、楼主と言い争う姿さえも見かけるようになった。
思い当たる節はある。
この時二十二になっていた月影は、店では最年長の陰間であった。既に陰間としての寿命は終わりに近いというのに、未だ月影の人気は衰えない。
故に、年若い陰間から心無い言葉をかけられることがあった。
中には耳を覆いたくなるような暴言もあったが、月影はいつもの微笑みでそれを聞き流していた。気に留めていないように思えたが、やはり傷ついているのかもしれない。
霞はゆっくりと立ち上がり、月影の好む茶菓子を用意した。
今宵はまだ月影は誰にも買われていない。
「失礼致します。霞でございます。」
一声かけても返事はなかった。
不審に思いながらそっと襖を開けると、冷気が肌を襲う。外は吹雪だというのに窓は全開で、酒瓶があちらこちらに転がっていた。
「月影様!?」
そして部屋の主人は、吹雪く窓の外に向かって羽織も纏わず煙管を燻らせていた。
その煙は強い風に吹かれて一瞬で消えていく。消えたそばから、月影は煙管を燻らせる。
近頃荒れている月影ではあったが、こんな姿を見るのは初めてのことだった。
「こんな日になんてお姿で…窓を閉めてください。お風邪を召されます!」
少々強引にその肩を掴み下がらせて窓を閉めると、外の風に当てられてガタガタと嫌な軋みの音を立てた。
そして窓を閉めてすぐに部屋を充満する、白梅香。
月影が好んで焚く香だ。
記憶の中の月影はいつだって白梅の香りに包まれて優しく微笑んでいるというのに、今の月影はどうだ。
酒をかなり飲んでいるはずなのに白い頬。少し青くさえ見える。
カタカタと小さく震えてじっと畳に視線を落としてその場から動こうとしない。
何かに恐怖しているような、絶望を抱えたようなその姿は、まるで翼をもがれ地に伏せる鳥のようだ。
「月影様…お顔の色が優れません。もうお休みになってくださいませ。」
努めて温かく優しい声を出したが、月影はゆるゆると首を振る。
腕を引こうとして取った手の冷たさに驚いていると、ぐるりと視界が回った。
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