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最低限のことだけを済ましSHRを終わらせる。
さっさとアイツの面倒を見に戻らなければならない。
荷物を持ち教室を出ようとしたところで後ろから楽しそうな話し声が聞こえてきた。
「お前、朝の話聞いたか?発情期のΩが来てるって。」
「聞いた聞いた。レイプしたってまじ?」
「いや、ぶん殴って逃げたからめっちゃキレて探してるってさ。誰だと思う?」
「さぁ。でも俺Ωって楠本くらいしか…」
そこまで話を聞いて教室を出ていく。
さっきの服の乱れ方はそのせいだろう。
薬も飲まずに来るアイツもアイツで悪いが、校内でレイプなんて起こったらどうなるかわからない。
騒がしい廊下をすり抜け一階の保健室まで戻ってくる。
朝、ここまで来ていたってことは逃げる先にここを選んだって事だ。
…やっぱり何故アイツは薬を持っていないかを聞き出さないといけない。
「入るぞ。」
そう声をかけ保健室の扉を開く。
ベッドの上には大福みたいに丸く膨らんだ布団しか見えない。
アイツは恐らくその中だろう。
それ以上ソレへ声をかけず引き出しから抑制剤を取り出す。
コップに水を注ぎそれだけを持ってベッドへと近付いていく。
近づくにつれ微かに荒い呼吸が聞こえてきた。
「…おい、楠本。」
返事はない。
中でくたばって死んでるんじゃないか、なんて疑いながらもう一度声をかける。
「おい。聞こえるか。…返事がないなら布団引っぺがすぞ。」
数秒間待つがそれにも返事はない。
仕方なく机へ薬とコップを置き、ゆっくりと布団をめくる。
布団の下で丸くなった楠本は荒い呼吸を繰り返しながら必死に自分の手で自分の手を握りなにかに耐えるように歯を食いしばっていた。
…相当、辛いんだろう。
「薬、飲めるか。」
「…っ……、け……」
「あ?なんだ?」
「た、…っ…す、…け……」
助けて。
確かにその口がそう言った。
出会って2日、俺はコイツとそんな事くらいしかまだまともに口を聞いていない。
この調子じゃ自分でコップを持って飲むのも叶わないだろう。
震える頬をそっと撫で、溢れてくる涙を拭ってやる。
…恨むなよ。
そう心で呟きコップの水と薬を自分の口へ押し込み楠本の頬へ手を当てる。
「っん、……は、っぅ……」
「……ん。馬鹿、ちゃんと飲み込め。」
「飲ん、っだ…から、…」
「よし、そのまま寝とけ。治ったら問診するから逃げんなよ。」
そう言ってまだ苦しそうな楠本へデコピンをしてやると、目は濡れているくせに1人前に睨みつけてくる。
可愛くないやつだ。
コイツには聞くことが山ほどある。
クスリのとこ、発情期のこと。
今朝のこと。
話すまで返す訳にはいかない。
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