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クスリ
教師って言うのは周りが思っているより厳しくなく、案外いい加減でも許される。
特に俺みたいな立場に付けば乱暴も面倒も思い通りだ。
ただ一つ言われるならチャイムの音は守れ、という事だ。
「…さて。」
そろそろ予鈴の時間になるだろう。
保健室は俺の特等席だが、担任を持つ以上ここに入り浸る訳にはいかない。
最低限の荷物だけを持ち廊下へ出ると目の前に乱れた服装のまま野垂れ死にしたかのように床へ倒れ込んだ姿が見えた。
…まずいな。
「おい、起きろ。」
「…っ…助け、ろ……」
「…本当可愛くないな、お前。助けて欲しいならそれなりに…」
それなりにしろと言っただろ、と言いかけた時に廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
発情したΩがいれば姿を見なくても気付くだろう。
特に、コイツはそれが濃い。
「ちっ、…後で礼はしろよ。」
「ん"……、…」
脱力した楠本を引きずるように保健室へ押し込み鍵を占める。
ここにいる、って気付いていても無理やり入ってくる手段はないだろう。
少し騒がしい外を無視して床で荒く呼吸をするソレの頬を軽く叩く。
「しっかりしろ。」
「…く、すり……」
「また忘れたのか?」
「……死、…っぬ、…」
「発情期で死んだ奴はいないから安心しろ。まぁ喰い殺されるかもしれないがな。薬はやるが俺はSHRに顔を出さないといけないんだ。そのまま耐えられそうか?」
「何分、……?」
楠本が弱々しく俺へ手を伸ばしながらそう言った。
発情期とはいえ無防備にも程がある。
俺が他のαだったら取り返しのつかない事になってるだろう。
伸ばしてきた手を握り返して乱れた髪を少し撫でてやる。
「すぐだ。イイコで待ってられるな、…皐月 くん。」
「わ、…か、った…」
頷く楠本をとりあえずベッドへ上げ、腕についた時計へ目を向ける。
急げば間に合うだろう。
アイツを一人で置いていくのは少し気が引けるがただ一人のためにクラスと俺の評価を犠牲にするわけにはいかない。
扉へ鍵を締めながらふと、さっきの姿を思い出す。
…なんでアイツあんなに服が乱れていたんだ?
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