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皆木から逃げるように廊下を走っていく。 まだ授業が始まったばかりだ、誰かが廊下にいるようなことは無いだろう。 ここがどこかもよく考えずにグルグルと駆け抜け立入禁止の階段まできたところでようやくハッとする。 …どこに行くつもりだったんだ。 仕方なく上がった息を整えようと階段へ座り息をつく。 面倒なやつに捕まった。 昨日の家での出来事や朝の事。 発情期であるにも関わらず薬を持たずに生活するのはほぼ不可能だ。 けれど俺は薬を手に入れる手段を持っていない。 これから先、皆木へ誤魔化しながら貰うというのは無理があるだろう。 その時、ふと気がついた。 視界に入る白い布。 「……あ。」 感情的になって思わず飛び出してきたが、あの時、皆木へ制服を渡したままだった。 下を向くと素肌にサイズの違う白衣を羽織った不釣り合いな格好をしていた。 ズボンはあるとはいえどこからどう見ても不審者だ。 薬だとかレイプだとかそんな事を悩む前に制服を返して貰う方が優先だ。 …でも、ここで素直に戻るのはなんとなく気が引ける。 次の授業が始まれば皆木も教室へ向かうだろう。 その時に保健室へ向かい制服だけ貰って帰ろう。 「それまでは、……待機しかないか。」 一人、そう呟いて膝を抱えて座る。 目線をあげると壁に"高等部 C"と書いてあるのが見えた。 ここは普通コースの教室らしい。 普通コースと聞けば一般的に聞こえるがこの学校内の普通は最下層だ。 風紀の悪さは特進コースとは比べ物にならない。 せめてここからは離れよう。 そう思い白衣の前を手で抑え、階段を一つ下の階へ降り始めた時だった。 「おい、お前。」 後ろからかけられた声にピタリと足を止める。 恐る恐る振り向くと、スーツ姿の教師の姿が見えた。 …しまった、怒られる。 「授業中だぞ、何してるんだ。」 「…えっと、……」 「その前にその格好はどうした?白衣?制服はどこにやった?」 「いや、これは……今から取りに行く。」 「とりあえず指導対象だ。行くぞ。…これだから普通コースの奴は……」 そう言うと教師に腕を引かれ無理やり連れられていく。 まずい事になった。 なんとか逃れないといけない。 「待てよ、俺は普通コースじゃ…!」 「いいから来い。」 聞く耳すら持ってくれないまま生徒指導室まで手を引かれて行ってしまう。 …朝からどうしてこんな目に遭わないといけないんだ。

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