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生徒指導室の硬い椅子に座りながら怖い顔をした教師をじっと見上げる。
正直に話した方が早く開放されるんだろうが、そう簡単にいく話でもない。
「お前、名前は?」
「…楠本皐月。」
「楠本。授業サボって何してた?」
「体調不良で保健室に言ってたんだ。それで今から行こうとしてた。」
「体調不良?保健室の入室書はあるか?」
そう言われてギクリとする。
…あのまま出てきたんだからある訳もない。
必死に前を手で抑えてるからバレないが中に服を着てないことがバレたら余計に面倒なことになる。
教師と関係があると勘違いされるのだけは避けたい。
「それを貰い忘れたから今から貰いに行こうとしていた所だったんだよ。」
「へぇ…で、その白衣は?」
「…これ、…は……冷えると良くないからって保険医が貸して…くれた。」
「あの皆木がなぁ?まぁいい、担任宛の紙だけ持ってくるから此処で待ってろ。どっか行くなよ。」
「…わかった。」
そう言うと教師が廊下へ出ていく。
なんだ、案外すぐに終わりそうだ。
これなら次の授業までには間に合うだろうし早いところ保健室の近くまで戻ろう。
皆木とは嫌でもいつかは顔を合わせることになるだろうがもうそれは無視を貫けばいいだろう。
そう考えながら机へ突っ伏する。
進級早々ロクなことがない。
…Ωである事が、こんなに厄介だとは思っていなかった。
10分は経っただろうか。
未だに帰ってこない教師を待ちながら違和感を感じる体を誤魔化すようにじっと時計を見る。
…そんな訳ない。
さっき薬を飲んだところなんだ、そんなに早い感覚で来ることもすぐ薬が切れることもないはずだ。
けれど思い出せば昨日も学校から帰ってすぐに…?
「楠本ー、待たせたな。…どうした?」
「…なんでも、ない。それ早く寄越せ…っ」
「寄越せって教師にその口の聞き方はないだろ。第一お前最初から…」
「いいから早くしろ…っ…こ、っちは時間が…!」
おかしい。
もう、薬が切れてる
ジンジンと熱くなり始める身体を片手で抱いて机へ俯く。
保健室までここからじゃかなり距離がある。
…この教師に頼んで連れていってもらうか、それとも…
「お前、…発情期か?」
「…保健室まで、…連れ、てけ…」
「あぁ保健室な。」
教師は手に持っていた紙切れを机の上へ置くと俺の肩に触れゆっくりと身体を起こさせる。
そのまま教師の顔を見上げると酷く歪んだ顔で笑っていた。
「具合のいい格好だな。最初からそのつもりだったのに気付けなくて悪かったな。」
「は、……?」
「お前が唯一のΩか。使い捨てくらいにはなるだろ。」
教師が俺の腕を強く掴んだゲラゲラと下品に笑った。
教師、だとか 生徒、だとか。
その前にαとΩだと言うことをここに来てようやく思い知らされた。
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