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1通り校舎内を回ったがどこにもアイツの姿が見えない。 あの格好のまま校外に出たとは考えられないだろう。 授業にも出られない、となるとどこかに身を潜めているのが一番考えられる。 授業中の校舎内で隠れられる場所…… 「…いや、どこにでも隠れられるだろ。」 このまま当てもなく探しても見つかるわけが無い。 仕方なく保健室まで戻り、アイツの制服のポケットを漁る。 携帯、財布、学生証も全部ブレザーのポケットに入ったままだ。 これが無いと困るだろうからいつかは保健室へ取りに帰ってくるだろう。 それならここで待機している方がいいかもしれない。 それに、アイツには保健室へ帰ってきてもらわないと困る。 さっき楠本へ飲ませた薬の瓶を持ち上げ中の錠剤を揺らす。 これは確かに抑制剤だがただの市販薬だ。 風邪薬や鎮痛剤と同じで薬局で売ってるような薬にはそんなに強い効果はない。 アイツの場合、きっと1時間やそこらで薬の効果は切れるだろう。 「…となると、また元通りだ。」 深く溜息をつき瓶を元の場所へ返す。 Ωでも発情期の重さはそれぞれだ。 楠本はそれが異常なくらいに強いということだけ。 嫌な奴に目をつけられる前に本人にその自覚をさせておきたいが…もう、手遅れかもしれない。 制服を無人のベッドの上へ投げ出しそこへ突っ伏する。 帰ってくるまでは、ここにいてやろう。 * コンコン、と遠くでノックが聞こえ身体を起こす。 うっかり眠っていてしまったらしい。 腕時計へ目を向けるとここへ着いてからもう30分は経っていた。 …午前に授業がなくて助かった。 そう思っているともう一度コンコンとノックの音が響く。 楠本かもしれない。 立ち上がり扉まで向かい、そっと開くとガタイのいい体とスーツが見えた。 「…先生、どうしました?」 「どうも。貴方のクラスの楠本…が、ちょっと風紀違反があって。今、指導をしてますのでSHRまでには返します。」 「楠本が?」 「はい。いやぁ、大した事じゃないんですがちょっと態度が悪くて。」 「…そうですか、お手間おかけします。」 「いえいえ。」 教師はそう言って笑うと扉を閉めようと手をかける。 生徒指導。 今の楠本は確かに指導することだらけだが普通指導内容を報告するならまず用紙を提示するはずだ。 「あの、楠本は一体何を?確かに口調に問題はありますが行動自体は…」 「授業のサボリですよ。」 「なるほど…他に、何か変わったところは?」 「いえ、特に。」 …サボリで捕まったのは納得できるが、変わったところが無いのはおかしい。 第一アイツは今制服を着ていないはずだ。 何か、おかしい。 「わかりました、わざわざありがとうございます。」 「いえ、それでは。」 そう言って扉を閉じる。 もう薬の効果は切れた頃だろう。 あの教師はα。 ナニかが、起きてしまう可能性は十分にあるということだ。 ……あぁ、面倒なことをしやがって。

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