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特進コースの生徒指導室、共通の生徒指導室、他にも心当たりのあるところはあちこち回ったがアイツの姿はない。
他に生徒指導のために使われるような教室はもう無いだろう。
あの教師とはそんなに深い仲でもないため普段どこにいるのかすらわからない。
「くそ、……」
もう手遅れかもしれない。
もうすぐ授業が迫っている。
1時間、アイツを探すことは出来ない。
…ただの一人の生徒にここまで執着する必要は無いだろう。
けれど。
あの時、確かに感じた。
これが きっと運命の相手なんだろうと。
それなら俺はまだ出会ったばかりのアイツを少しでも守る義務がある。
それがいつかの 俺のためだとしても。
かと言って授業を犠牲にはできない。
腕時計を見て時刻を確認する。
1時間後。
あと見に行ってないのはC校舎くらいだ。
授業が終わればそこを重点的に探そう。
*
授業を終え早足で教室を出ていく。
これで見つからなければ放送であの教師を呼び出し話を聞こう。
そう考え普段はあまり足を運ばない校舎へ進んでいく。
風紀の乱れたここは髪の色が違ったり耳に穴が空いていたりとやりたい放題だ。
…冷静に考えてこんな所に楠本が来る訳が無い。
考えればすぐにわかった話だ。
それなのに、なんで…
「……たっ、す…け、……!」
帰ろうと振り向いた瞬間、後ろから微かに声が聞こえた。
後ろにあるのは誰も入る訳のないはずの教室だ。
ここは物置になっていたはず。
…気の所為、か?
そっと扉に触れそこへ耳を当てる。
周りから見ればひどく不審な状態だろう。
「っぃ"、っ……や、め……っ誰、か…、!」
枯れた叫び声と何かの振動音が聞こえる。
信じたくない。
だが、この声は間違いなく楠本のものだ。
反射的に扉に手をかけるが鍵がかかっていて開かない。
教室の鍵は職員室にしかない。
そんな悠長な事をしている暇はもうなかった。
コイツと別れてから数時間。
一体、いつからここにいたんだ。
助けて
お前が そう言ったんだ。
扉の横の磨りガラスに手を当てる。
思い切り腕を振りかぶり磨りガラスへ振り下ろす。
ガシャン、と派手な音を立てて鈍い痛みと引換に窓が割れて崩れていく。
周りの生徒の目線を気にせずに割れたガラスを引き抜き窓枠から教室の中へ入っていく。
そのオトが確実に近付いていく。
どうか、無事で。
「…おい。」
「も、…や"め……ろ…っ、…」
床に変わり果てた姿で転がった楠本は、あちこち他人と自分の血や体液にまみれているくせに涙だけは一滴も流れていなかった。
両手足を拘束され、目へ布を当てられたまま白衣だけはかろうじて袖を通しているが履いていたはずのズボンも下着もどこにも見当たらない。
その代わりに白衣から見え隠れする後ろには細いとは言い難いバイブが突き刺さり、その間だからは白い液体が時々ぽたぽたと落ちては床を汚していた。
黙ったままの俺へ楠本は枯れた声で一言
「……皆木、…?」
とだけ言うと、目は隠されて見えないくせに顔だけ俺を見上げては「助けろ」と呟き床へグシャリと崩れた。
あぁ 何もかも、ボロボロだな。
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