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少し待ってろ、とだけ言い残し机へバインダーと記入用紙を取りに戻る。
目当てのものを手に取りカーテン越しに中を覗くと楠本はぼーっとどこか遠くを見つめていた。
焦点の合わないその目はどこか恐ろしくて切なく見える。
「おい。」
「……なんだよ。」
「気飛ばしてるのかと思った。さて、さっさと終わらすか。何があったか1から10まで言え。」
そう言うと楠本は明らかに嫌そうな顔をして、1度ベッドへ俯いてしまう。
自分がレイプされた経緯を説明するのは誰だって精神的にきつい物だ。
俺なら絶対に言いたくない。
…が、これも教師の特権だ。
「早く言え。」
「…サボリだって、生徒指導された。その途中に薬が切れて…それだけだ。」
「何をされたんだ?言わないとわからないだろ。」
「言わなくても分かるだろっ…、お前何見てたんだよ…!」
「俺が見たのは最終的な状態だろ。最初からああなってたのか?」
「…それは、違う…けど、…」
威勢よく声を上げるがすぐに萎んでしまう。
悔しそうに手を強く握り込むと、俯いたまま小さな声でポツリポツリと話し出す。
「殴られて、…動けなくなった。そこを手足を縛られた。…抵抗出来なくて、そのまま挿れられた。」
「そのままって何をそのままだ。」
「…慣らされずに、ゴムも無かった。締めろって…叩か、れ……」
「続けろ。」
言いたくない、と言葉を止めようとする楠本へキツく一言だけ言う。
楠本は俯いていた顔をゆっくりと上げ俺へ目を向けると、キツく睨みつけるように目を細めた。
立派な顔だ。
どれだけ悲しい素振りをしてもこのまま帰してやる訳には行かないのだから、仕方ない。
「…声は出すな、舌を噛めって。舌とか唇とか噛んで…耐えてた。声を出すと髪を引っ張られて顔を床に打ち付けられるから。」
「だからそんだけ血が出てんのか。」
「ん。」
「それから?」
まだ言わせるのか、という目で一度見るが直に諦めたような顔をした。
もうどうでも良くなったのだろう。
一度ボリボリと頭を搔くと大げさなくらいのため息をついて頭を抱えて俯いた。
「力が抜けると勝手に寝るなって蹴られた。腹とか。何回も、吐くくらい。…途中で中に出されたの気付いて出してくれって言ったらまた蹴られた。
吐いても蹴られた。それからも何回も中に出された。しばらくしてアイツの授業があるからって変なのを入れられたまま放置。…それで、お前が来た。」
「腹の痣はそれのせいか。」
そんなもんだろうと思っていたがかなり災難だったらしい。
まぁ、レイプするようなやつは誰だってそうだ。
これくらい仕方ない。
優しくしてやって、また誰かに傷つけられる方が辛いだろう。
俺は何も書いていない紙を伏せるようにバインダーを膝に置き何も言わずにただ楠本の横顔を見つめていた。
光に触れるまつ毛は乾いたままゆっくりと瞬いていた。
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