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崩れる

シンとした廊下を一人裸足で歩いていく。 なんで、今更誰かに期待しようと思ったのだろうか。 もうこの先、誰かに好かれることなんてないと知っていたのに。 信じて期待して傷付く事を知っていたのに。 1人きり冷たい床を踏みしめながら靴箱までくる。 今朝、登校してすぐに襲われ逃げたせいで靴はどこに行ったかわからない。 仕方なく裸足でそのまま先へ進んでいく。 アスファルトや小石が足に刺さって痛むがもうそれもどうでも良くなってくる。 身体が痛い、何故か胸の奥も痛い。 知っていたはずの痛みを改めて味わった気がする。 優しくされない事も好かれない事も当たり前の事なのに今更どこかで求めていた。 帰ったら家族はどんな顔をするだろう。 明日、学校に行けばまたαに襲われるのだろうか。 逃げられずにそのまま? 薬ももう無い。 兄にあの量を無くしたといえば何をされるかわからない。 父親に言っても貰えないだろう。 そんな環境だって知っていたのに。 なのに、助けに来てくれた時。 気が付けば体が綺麗になっていた時。 ほんの少しだけ優しくされた時。 "これが運命の番なんだな"なんて 少し思ってしまったんだ。 幸せになる道があるのかもしれない、なんて。 「…俺に、そんな権利ないのに。」 わかっていた、はずなのに。 ぼーっとした考えのまま家の前に立った。 まだ兄は学校のある時間だ。 父親も病院の方にいるだろう。 今なら誰も家の中にいないはずだ。 今のうちに部屋に入れば今日だけはバレないかもしれない。 そう思い、慌てて門の鍵を開き家の中へ飛び込む。 今だけはもう誰にも会いたくない。 何も言われたくない。 「おい、誰だ。」 何も、何も触れられたくない。 「……父さん、…」 「なんだその格好は。学校はどうした?」 「その、……えっと、…」 「どうしたって聞いてるんだ。」 階段を登ろうと足を一段あげた時、後ろから一番会いたくなかった人の声が聞こえてきた。 恐る恐る振り向くと予想通り吊り上げた目が俺を睨みつけていた。 「…制服、無くし…て、…」 「荷物は?なんで裸足なんだ。」 「………え、っと…」 「いいから早く答えろ。」 この人に嘘は通用しない。 隠したところで皆木が家に伝えてしまうだろう。 それなら、何か言われる前に正直に話してしまった方がいい。 噛み締めた唇を離し父親の方へ目線を向ける。 「レイプ、された。」 「レイプ?」 「それで服も靴も鞄も無くした。薬、無いから…嫌でも気付かれて襲われる。明日も明後日もこのままじゃ…」 「それで尻尾まいて帰ってきたのか?楠本家の男が情けない。」 「情けない、っ…て、……医者なら発情期がどんなもんかくらい分かるだろ…!」 言い終えるより前に頬に衝撃を感じた。 そのまま体を突き飛ばされて扉に強く打ち付けられる。 頭がグラグラと揺れて痛みで意識が朦朧としてきた。 なんで、俺、こんな目に。 「お前にはΩだから、なんて言い訳通用させない。発情期が終わるまでは家に帰ってくるな。人間らしくいられないなら、この家にはいらない。」 「……俺、…そんなに悪い事したか…?」 俺だって、こんな姿になりたく無かった。 それなのになんで。 少しくらい大切にしてくれたっていいのに。 こんなに嫌われて どうしてそうまでして生きてなきゃいけないんだ。 「あの時、見殺しにするべきだったな。」 「……俺だって、…生きたく、無かッ……ぅ"、…!」 「出ていけ、早く。お前汚いんだよ。」 殴られて蹴られて痣になった上にまた父親の足が重ねられた。 痛い?苦しい? いや、もう知らない。 どうでもいい。 レイプも暴力ももう苦しくなんてない。 するなら好きなだけすればいい。 見返してやる。 嫌われていい、1人でいい。 俺は絶対に独りで生きてやる。

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