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いつも通り、必要最低限の荷物だけを持ちチャイムが鳴ると同時に教室の扉を開いた。
いつもより少しざわめく生徒を無視して教卓の前に立つ。
挨拶、と言おうと顔を上げた瞬間ざわめきの理由にすぐ気付いた。
「おい、お前ら…っ」
教室の後ろに一瞬丸まったカーテンが落ちているのかと思った。
それはカーテンなんかじゃなくて昨日俺が着せたままのパジャマを着た楠本で、そのパジャマも今じゃ布切れみたいになっていた。
このクラスの誰かがやったのは確実だろう。
俺は怒鳴るのもやめ、教壇を降りると蹲ったまま動かない楠本の傍まで近付いていく。
距離が近くなるにつれムンと青臭い匂いが鼻につく。
何食わぬ顔で座っている周りの生徒が恐ろしく感じた。
「おい大丈夫、っ…か、……っ!」
「…いらない。」
大丈夫か、と手を伸ばそうとした所に上靴を投げつけられる。
驚いてそのまま見下ろしているとヨロヨロと体を起こし真っ赤な顔のままパジャマの前のボタンを締め始めた。
誰かの体液や血液のついた白いパジャマは薄汚れてとても清潔には見えない。
発情期のせいで熱を帯びた表情やぼーっとした目がどこか性的に見えるのは仕方ないだろう。
それはきっと俺以外の全員も同じように感じている事だ。
「どいて。」
楠本はそう呟くと俺の足元に落ちた靴を手繰り寄せ、フラリと立ち上がった。
今にも倒れそうなまま俺の横を通り過ぎていく。
上靴は片方しか無いのかもう片方は裸足だ。
そのまま自分の席まで辿り着くと崩れるように椅子に座り、そのまま両肘を机へつきそこへ頭を預け俯いた。
「…おい、楠本。」
返答はない。
俯いたまま時々左右に揺れるだけで何も言わなかった。
「おい、聞こえてないのか。……無視するな、おい!」
「……関わるな。」
もう一度声をかけると小さくそう言い、もうそれ以上何も言わなかった。
関わるな。
それが楠本の願いなら俺はそうしてやるべきなのかもしれない。
Ωの気持ちなんてわからない。
…本人がもういいなら
「…SHRを始めるぞ。日直、挨拶。」
「はい。起立。」
その声に楠本もフラリと立ち上がった。
が、力無く隣の生徒の方へ身体が傾いていく。
慌てて身体を支えようと手を伸ばそうとするがさっきの言葉を思い出し、そのまま手を引っ込める。
傾いた身体が生徒へ向かう。
「…汚ね、…っ…」
そんな言葉と同時に生徒が身を交わすと、鈍い音を鳴らして身体が床へ叩きつけられた。
誰も手を貸そうともしない。
ピクリとも動かない楠本へ誰も同情も何もしなかった。
「礼。」
「おはようございます。」
そんな決められた挨拶が教室へ響く。
気味の悪い、朝が始まった。
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