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「良かったのかなぁ?」 教室を出た瞬間、すぐ横からそう声をかけられ勢いよく声の方向へ向き直る。 そこにはシー、と指を唇に当ててニヤニヤと笑うよく知った人物が立っていた。 「…何がだ。」 「何って楠本クンの事だよ。あのままじゃ、皆の標的だよ?」 「知るか、アイツが放っておけって言うなら俺はもう手出しをしない。」 「へぇ……」 ソイツを避けるように反対側の廊下へ歩いていく。 だが、後ろから足音が追ってくるということはソイツも付いてきてるんだろう。 「しつこいぞ、奏斗(カナト)。」 「だって納得してないって顔をしてるから。本当にどうでもいいならキミ、声かけたりしないでしょ?」 「生徒だからだ。」 「そう。」 そう言うと奏斗はピタリと立ち止まった。 どうした、と後ろを振り向くと視線の先にはさっきの教室へ男子が数人入っていくところだった。 中にはもう楠本しかいない。 何が起こるかは大方想像つくだろう。 「あの生徒は…3人はαだね。」 「だからどうした。」 「孕むよ。それに、タチが悪かったら番にされる可能性だってある。キミだってそれくらいわかるよね?」 「…知らないな。アイツが捨てられたって俺には関係ない。孕んで病んで自殺してもな。俺に何の義務もない。」 そう言い放つと奏斗はクルリとこっちへ振り返りニコニコと笑って見せた。 一つにまとめた細い髪の束を撫でると、俺の横を通り過ぎて歩いていく。 横へ着くように前へ進むと大袈裟なくらいに明るく笑った。 「そうだね、そうだよね。キミは他人に興味すらないもんね。ボクはちゃーんと覚えてたよ!」 「そうか、安心した。」 「代わりにボクが構ってあげよーかな。可哀想な一人ぼっちのΩくんだからね。この学園じゃ生きていけないでしょ。」 「発情期なんて数日だ、なんとでもなる。」 「そう?でもさ。」 俺の腕を掴むと顔をズイ、と近づけ引きつけるように、まるで忠告するようにゆっくり 「ここは餓えたαだらけで彼は唯一のΩ。成長期の終えた中では随分小柄だよね。様子を見てたけど数人係で抵抗もまるで出来てなかったようだよ。 …発情期はきっかけ、そう思わない?」 と言うと怪しげに笑った。 「…何が言いたい?」 「…っ、はは!どうでもいいキミには関係ない事だったよね。それじゃボクは1限目から授業があるから。またね、優。」 「おい、待て奏斗…!」 スタスタと後ろ手を振りながら歩いていく奏斗へ声をかけるがもう立ち止まらなかった。 きっかけ? 今後もアイツへの暴力や注目が続いていく? "……関わるな" 危険なことになるかもしれない。 それでも、アイツが求めない助けをする必要は無いだろう。 生徒と教師、それ以上はない。 …無くていい。 「運命の、…番だと、しても?」 1度廊下を振り返った。 閉まった扉の向こうで何がされているのだろうか。 今、助けに行けばまだ間に合うかもしれない。 「…、いや。」 半分後ろへ引きかけた足を前へ戻す。 俺には関係ない。 答えはそれだけだ。

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