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それから、特別どこかを探したりもせずにときが流れていった。 そもそも学校に来てるのか、家にいるのか、どこで何をしてるのかすらも確認を取れないまま。 1日、2日。 週が開けて3日経った頃。 ようやくこのまま置いておくのは良くないだろうと判断した。 かと言って踏み込みたくもない。 最低限、親にだけは連絡しておこうと家へ電話をかけると優しげな母親は何一つ困ったような素振りはせずに 『息子は毎日ちゃんと学校へ向かい、いつも同じような時間に帰ってきますよ。』 とだけ告げると早々と切ってしまった。 帰ってきたら電話するように伝えてください、と伝言を頼んでも丁重に断られてしまう。 それ以上俺も聞き入れなかったし、向こうも何も聞いてこなかった。 ただ、家を出て学校へ向かっているはずの楠本は4日も登校せずに教室に姿を現さなかったというだけだ。 不登校になったのか、少しヤンチャしたくなったのか。 あの状況だったから学校へ来たくなくなる気持ちもわからない事も無い。 …けれど。 「…アイツ、…本当に生きてんのか。」 生きてるのか死んでるのか。 それすらもわからない。 生徒達は毎日どこか様子がおかしくて、あれ以来奏斗は俺に必要以上に話しかけてこなくなった。 まるで、俺だけが何かを知らないような。 そんな感覚に襲われる。 知らない方がいいのかもしれない。 知らなくてもいいのかもしれない。 本当に、それでいい? 何故かあんな奴のために俺は頭が痛むほど悩んでいた。 何故か気にかけてしまって仕方なかった。 だからだろうか。 木曜日、土砂降りの放課後。 いつもなら生徒なんて気にせずに帰るところを今日だけは遅くまで残ってしまっていたのは。 だからだろうか。 いつもなら駐車場まで振り返らずに向かうところを今日だけは校門へ足を向けてしまったのは。 そういえば春の嵐が来る、なんて言ってたか。 風で半分開いた校門を閉めてやろうと足を向けると水たまりの横に青白い手が見えた。 見てはいけないものを見てしまった。 そう思い一瞬足がすくんだがこれは教師として見て見ぬふりをするのは許されないだろう。 傘の持ち手を握りしめ門を引くと青白い手と青白い顔。 それから汚れの染み出た白かったはずのパジャマが見えた。 それが誰で何なのか。 考えなくてもよく俺は知っていた。 傘をソレの上へ被せ、頬へ手を当てる。 冷たい。 けれど確かに生きている。 バチバチと傘に叩きつけられる水音にかき消されないように少し大きな声でソレへ声をかける。 「…ここに、このままいたいか?」 嫌だと言われてもそれなりの頼み方をされない限りここに置いていってやろうと腹の中で決めていた。 あれだけのえらい態度をされたんだから俺にもそれくらいの権利はあるだろう。 …けれど、死体みたいな顔をしたソレは同じく死体みたいな手を俺の手にほんの少しだけ重ねては 「…助け、て……く、ださ…ぃ……、…」 と、目も開けずに言った。 最後の最後の力を振り絞るように。 命乞いをするように。

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