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ピリピリと舌が痛い。 痛みから、苦しみから逃げるように思いまぶたをこじ開けた。 視界に入ったのはいつかと同じ真っ白な天井とそれから白いカーテンと布団。 外からは嵐みたいな雨の音が聞こえてきた。 鉛みたいに身体は重くてそのまま動けずにまた目を閉じた。 いつぶりに、ゆっくり眠っただろう。 あの日ここを飛び出してから…いや、それ以前から。 人間らしく眠っていなかった。 そのまま現実の夢に溺れていると、暫くして遠くから扉の開く音がして追うように足音が近付いてくる。 その足音は傍まで来ると俺の前で止まった。 カーテンの開く音の後、冷たい手が首元へ触れる。 今までの事を思い出し、確かに恐怖を感じるはずなのに何故か今の俺はこの手の持ち主を信頼していた。 この人は傷付けない、と。 「…熱は無いな。」 それだけ低い声が呟くと、頭を優しく撫でられた。 それが合図のように重かった瞼が勝手に開いていく。 手の隙間から怪訝そうな顔が見えそれから暫くしてパチリと目が合った。 「起こしたか。」 「………ぁ、……」 「声枯れてるのか?口閉じてろ、喉に良いものでも取ってくる。」 「待、…っ…て、…」 皆木が振り向いて向こうへ行こうとするのを拒むように、何故か俺の手は白衣の裾を掴んでいた。 あんなに重かった身体が急に動いたのも何故こんな事をしたのかもわからず戸惑っていると俺よりももっと驚いた顔をした皆木が振り向いては俺を見下ろす。 「…どうした。」 「な、んでも……無い、…」 「はぁ、…向こうに行くだけだ。カーテンは開けとく。」 皆木はそう言うと子供をあやす様に俺の手にポンポンと優しく触れた。 俺が頷き、手から力を抜くと白衣は遠ざかっていく。 それ以上追わず目を閉じるとやっと頭が覚めたのか体のあちこちの痛みに気付いてくる。 どこが痛いのか分からないくらいに体中が痛い。 それから、次に応急手当がきちんとされていることに気付いた。 布団の中でもぞもぞと体に触れると包帯や湿布が巻かれている。 眠っている間にしてくれたのだろうか。 ……これもきっと、事務的に。 そんな事を考えているといつの間にか戻ってきていた皆木が俺を見下ろしていた。 「起きられるか。」 「一人じゃ、無理だ。」 「支えるからそのまま後ろにもたれろ。眠ったままだと飲めないだろ。力は入れなくていい、いくぞ。」 「…ん、……」 皆木に抱きしめられるように体を支えられる。 怪我や痛みの酷いところは避けて触れてくれているらしい。 ゆっくりと体を起こされると、後ろへ背を預けるように座った。 そこへプラスチックの軽いコップを手渡される。 「はちみつレモン。甘いのは平気だったか?」 「…好き。」 「そりゃよかった。誰かさんみたいに桁違いの甘党だったら言え、蜂蜜足してやる」 「誰か、…?」 「こっちの話だ。」 よく分からないまま湯気を立てるコップへ口を付け少しだけ口へ含む。 甘くて優しい味。 ずっと昔、母親が作ってくれたほっとレモンを思い出す。 チラリと横目で皆木を見ると、いつもとは違う優しい目で俺を見ていた。 なんとなく目を合わせなくてそのまま俺はコップの中へ目線を戻す。 湯気で顔を隠すために深く俯くように。

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