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強がり

どこを見てればいいのかわからず、腹の上で組んだ手をじっと見て頭の上から感じる目線から逃げていた。 ユラユラと揺れる振動は長く続くと酔ってくる。 「俺、…何回アンタに運ばれてんだろう。」 「人をタクシーみたいに言うな。不満なら引きずってやろうか。」 「それは嫌だ。」 「それじゃ文句言うな。これが一番安定感あって俺も持ちやすいんだよ。」 「…人を荷物みたいに言うな。」 「お荷物なのは間違いないだろ。」 あぁ言えばこう言う。 やっぱり好きじゃない。 口を結んでまた下を向くと、ザーザーと傍から雨の音が聞こえてきた。 駐車場へ続く通路は上にかろうじて屋根があるがすぐ横のコンクリートには雨が打ちつけている。 「おい、俺のポケットから車のキー取れ。」 「これか…?」 「どう見ても目薬だろ。」 「…ん、…あった。」 「馬鹿か。それはマスターキーだ。」 「どこにあんだよ…」 ガサガサとポケットを漁るが、そもそもどのポケットからすらもわからない。 見当はずれの物ばかり引き当てていると諦めたのか「もういい。」とイラついたように言っては1度俺の体を抱き直す。 体に密着するように強く抱かれるとグイ、と顔が近付いた。 黒い髪にはよく見ると所々茶色いメッシュがあり、目元には泣きボクロがある。 高い鼻は筋が通っていて切れ長の目は細い2重のラインが端まで走っている。 嫌なくらいに整った顔だ。 見てるだけでムカつくから、と目を閉じるとほんのり花の香りが匂ってくる。 …いい、匂い。 「…っ、と。取れた。……なんだ、そんな顔して。」 「へ、…いいから、っ早くしろ、…!」 「はぁ?お前が役立たずだから俺が取ってやってたんだろ。あんまりでかい口叩いてると殺すぞ。」 思わず出た言葉に皆木は大人気なく怒ったようにそう言うと開いたドアから俺を後部座席に投げ込む。 頭を奥に倒れ込むようにシートへ体をぶつけたのにも関わらず勢いよくドアを閉めると、そのまま皆木も乗り込んできた。 「痛、…何すんだよ。」 「お前が悪い。さっさとシートベルト閉めろ。」 「ん、……閉めた。」 「さっさと帰るぞ。…で、お前の家どこなんだよ。」 もう、嫌だとか言いたくないだとか、そういう我儘は通用しないだろう。 きっと皆木はそんなこと受け入れてくれないはずだ。 いや、皆木じゃなくても。 家に帰るのが嫌だなんて我儘、誰も許してくれない。 「…東町。」 「住所は。」 その言葉に正直に住所を告げると、返事もなく車は走り出した。 雨が打ちつける窓ガラスを眺めてあともう少しでまたあの家に帰るのだとカウントを始める。 もう、何日帰ってないんだろう。 発情期さえ終われば帰っていいはずだったあの家へ俺は自ら足を向ける事は出来なかった。 皆木の中では俺は帰っている事になっていたがそれもどうせ親が適当にそう伝えたんだろう。 帰っても帰らなくても誰も何も言わない…いや、帰ってくることを嫌がる家に。 どうして俺はまた帰らなければならないんだろう。

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