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いつもの道をいつも通り車を走らせる。
時々ミラー越しに楠本の様子を伺うが、俯いたまま動く事は無かった。
相当疲れているんだろう。
今は触れないでおこうとそのまま無言で帰路を進んでいった。
それから声をかけたのはマンションの駐車場に入り、いつもの場所へ停め終わってからだった。
「着いたぞ。」
「ん、……」
「…身体ダルいか?」
「頭、…痛い。」
「家帰ったら看てやる。もう少し耐えろ。歩くのも無理そうか?」
ぼやけた返事と一緒に上がった顔はどこか熱に浮いていて、顔色は悪そうだ。
だが確かに今はもう発情期は終わってるらしい。
ただ体調を崩しただけか、それとも疲れが取れていないのか。
今の状態じゃまだわからない。
俺は一度運転席から降りると後部座席のドアを開けうなだれる楠本の顔を覗き込んだ。
「無理なのか無理じゃないのかくらい答えろ。自分の事だろ。」
「……ごめん、…。」
「あ…?謝れって言ってねぇだろ、馬鹿が。歩けるのか、歩けないのかどっちだって聞いてんだよ。」
「あ、……る、く。」
つい強く言うと、楠本はビクリと大げさに身体を揺らした。
それから小さく答えるとカタカタと震える手でシートベルトを外しては俯いたままおずおずと地面へ足をつける。
シートから尻を浮かせ立ち上がろうと足へ体重をかけた瞬間、ぐしゃりと体が崩れ俺へ倒れかかってきた。
慌ててその体を受け止めると濡れた体は熱を持ち何かに怯えるように震えていた。
「おい、…大丈夫じゃないならそう言え。」
「……ご、めん…っ、…許し、…て…」
楠本は俺の肩を掴んでは弱々しく握りしめてそう呟いた。
何のために誰かに許しを求めているんだろうか。
何を許して欲しいんだろうか。
答えを間違えたことを、それとも倒れてしまった事を?
それとも、体調を崩してしまったことをだろうか。
俺はどうしようもなく楠本が惨めに思えてその体を抱きしめては持つ限りの優しい声で
「謝るな。俺はお前に怒ってない。」
と言った。
楠本は暫くそのまま震えていたが直におさまると、俺の腕の中でじっとしたまま
「…ありがとう。」
とだけ言っては眠ってしまった。
熱い体を、まるで子供をあやす様に正面から抱き上げると荷物を持って車を後にする。
コイツの体や心が今どんな状態なのか正直把握出来ていない。
だが、もしかしたら
想像以上にぼろぼろに壊れてしまっているのかもしれない。
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