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病院のベッドで眠る俺を天井から見下ろしていた。 まさか死んだのか、と思ったけれどこの光景には見覚えがある。 あの事故の日の自分だ。 悲しいことにベッドの周りには誰もいなかった。 親も兄弟も医者も。 もしかしたら、あの日俺が眠っている間ずっと誰もいなかったのだろうか。 誰も目覚めるのを待っていてくれなかったのだろうか。 「い、って……、…」 チクリとした痛みに目が覚める。 思いまぶたを開くと、オレンジ色の豆電球だけがついた薄暗い部屋があった。 ここがどこだか俺は知らない。 セミダブルくらいのベッドと後はタンスや机しかない殺風景な部屋だ。 暫くして目が覚めてくるとゆっくりと体を起こした。 さっきのチクリとした痛みは頬の怪我が枕に擦れた痛みらしい。 俺は布団を捲りベッドから裸足をフローリングに下ろした。 恐る恐る歩き出し部屋の扉を開けたところで眠る前の出来事を思い出す。 「と、したら…ここは皆木の…?」 そっと扉の向こうを覗き込むとそこは廊下の様だった。 廊下のすぐ右は玄関で左の突き当たりはガラスの扉が見え明かりがついているらしい。 その他にもいくつも部屋があり階段も見える。 この家は相当広いらしい。 扉を閉めゆっくりと廊下を進んでいく。 ガラスのドアへ顔を近づけると中から物音が聞こえてくる。 と、思ったかと思うと急に目の前に皆木の姿が現れる。 「ひ、っ……!」 「あぁ、起きてたか。」 俺が思わず声を上げると皆木は済ました顔でそう言い、扉を開いた。 …心臓が止まるかと思った。 「体の具合はどうだ。」 「まだ…マシ。」 「そうか。自分で歩けるようになって安心した。腹は減ってるか?」 「腹、……っ、…」 空腹なんて意識すらしてなかったのに、思い出した途端に腹がグゥと大きな音を立てた。 慌てて抑えると皆木はしばらくポカンとしていたがすぐに喉を鳴らして笑い始める。 「な、っ…笑うな……!」 「いや…正直な体だなと思ってな。どうせずっと何も食べてなかったんだろ?座って待っとけ。」 「わかった、……」 「お前も知ってるだろうが人は食わないと死ぬからな。帰れなくてもちゃんと飯ぐらい食えよ。」 「…それどころじゃなかったんだよ。」 「そりゃ失礼。」 指定された通りに椅子に座ると皆木はキッチンへ入っていく。 椅子に座ったまま周りを見渡しては息を飲んだ。 両手を広げても足りないくらいのテレビにシャンデリアみたいな照明。 窓の外は夜景とタワーが見え、半分吹き抜けになった天井は恐ろしく高い。 「なんだ、この家…」 「後で案内してやろうか。迷子になられると困るからな。」 「そんなに広いのか…?」 「まぁ…そこそこ広いだろうな。1人で住むには似合わないくらいには。」 キッチンへ顔を向けると皆木はつまらなそうに言った。 …私立高校とはいえ、新人教師の給料がそんなに高いとは思えない。 見た目が若いってだけで本当に新人かどうかも知らないが。 「随分裕福なんだな。」 「親がな。有名な資産家らしい。家も車もなんでも気がつけばあった。」 「…らしい?」 「親は海外にいて俺は会ったこと無い。親の話も育ての親に聞いた事だ。最近じゃよくある話だろ。」 「よくある、…んだ。少なくともこんな金持ちには初めて会った。」 「そうか。なんなら高級食材でも用意してやったらよかったな。悪いが今日は冷凍うどんで我慢しとけ。」 そう言うとキッチンから笑い声が聞こえてきた。 皆木、って男は案外よく笑う男なのかもしれない。

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