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そこまで話をした所で時計へ目をやる。 楠本が目覚めてから飯を食べさせ、少し話をしていたが時刻は12時過ぎ。 明日も8時にはここを出ないといけないから、出来れば夜ふかしはあまりしたくない。 だがコイツを風呂に入らせ寝る準備をするのに急いでも一時間はかかるだろう。 「…とりあえず風呂、入るか。」 「ん。」 「着替えは俺のを着とけ。下着…は、封を切ってないのがあったはずだからそれを使え。」 「わかった。」 そう言うと楠本も素直に頷いた。 風呂場へ案内しようと立ち上がり「付いてこい」と声をかけると、すぐ後ろへついてくる。 リビングを出てすぐの扉を横へスライドして開く。 「ここで服脱いで入れ。風呂…は、特に説明しなくてもわかるよな?」 「それくらいわかる。」 「そりゃ良かった。入ってるうちに着替えは用意してここに置いておく。」 「ん。」 「なんかあったら給湯器のリモコンについてる呼び出しボタンを押せ。あんまり長湯はするなよ。あとは…」 「お節介しなくてもいい。…風呂くらい1人で入れる。」 少し拗ねたような顔で言うとパジャマに手をかけ、すぐ脱ごうとする。 せめて俺がいる前では脱ぐな、と言おうとしたがいまさらだなと思って言うのはやめにした。 きっと楠本も同じ気持ちだろう。 「それじゃ、ごゆっくり。」 「ありがと。」 扉を閉め、そのまま2階へ上がる。 楠本に着せる着替えと新しいバスタオルだけを手に持ち1階戻ると脱衣場へそれを置きすぐに出てくる。 後はアイツが出てこれば終わりだ。 リビングで一人ポツンと座り肘をついてどこを見るわけでもなくぼーっと考え込む。 虐待、レイプ、いじめ。 何をすればそんなに嫌われるんだという疑問への答えはすべて"Ωだから"という一言で解決するだろう。 格差社会もいいところだ。 うちの学校は国有数の私立高校だが、クラスによってその知能は大きく変わる。 俺の受け持つ特進コースは所謂エリートってやつだ。 頭の良さは国トップレベル。 そして9.5割の生徒がαで構成されている。 残りもほぼβでΩは楠本1人だけだろう。 学校内で見てもそれは同じだ。 進学コースや普通コースも大半はαで他はβ。 Ωは在籍していない。 そんな環境の中で発情期が酷く、体格もひ弱な楠本が標的になるのは考えてみれば不思議な事じゃないのかもしれない。 「…あるべき犠牲、なのか。」 楠本がその標的になる事によってどこか、この学園は落ち着いたように見えた。 誰か一人落ちぶれた奴がいたら他の奴にはゆとりが出来るもんだ。 けれど、そんな姿を見ているのはそうそう良いものでもない。 救うことが出来ないとしても どうにか絶望だけはさせない方法を探さなければならない。

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