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楠本の体へ服を着せ、まだ熱い体を抱き抱える隣の寝室へ寝かせる。
楠本は自分の腕で顔を隠したまま荒い呼吸を繰り返していた。
正直、この部屋にいる事が耐えられないくらいにはこっちも堪えている。
発情期っていうのは確かにΩに現れる変化ではあるがそれによって出るフェロモンはαを誘惑することになる。
それは俺だって例外じゃない。
涼しい顔をして居られる時間は長くは無い。
「楠本、水を取ってくる。このまま少し待ってろ。」
「……、えて…っく、…る…?」
「なんだ?ゆっくり言え。」
離れて扉に手をかけたところで楠本が途切れ途切れに何かを呟く。
慌ててベッドへ近付き背を低くすると、腕の間から潤んだ目で俺を見つめながら今度はゆっくりと区切り区切りに呟いた。
「すぐ、…帰って、くる…?」
それは甘えだろうか。
今まで、強がったような事しか言わなかった楠本が初めて俺に我儘に似た言葉を言った。
すぐに帰ってくるか、という問いはきっと一人になる不安からだろう。
俺はできるだけ優しい声で
「すぐに戻る。一人にはしない。」
とだけ楠本へ言った。
心做しか安心したような顔をするとコクリと一度頷き、その目は閉じられる。
楠本へ薬が効けばきっとまた元の様に戻るだろう。
今だけの特別な姿といえば少しは聞こえが良くなるかもしれない。
*
部屋を出て5分くらいだろう。
約束通り水を手に部屋へ戻ると、ベッドにはさっきと全く同じ体勢のままの楠本がいた。
「水、飲むか。」
「…自分で、飲め…る。」
「わかった。零すなよ。」
さっきよりは意識がしっかりしているらしい。
ゆっくりと自分の力で身体を起こすと俺の手からグラスを受け取り口をつける。
薬が効いてきたのだろう。
飲み終えたグラスを俺へ突き返し、膝を抱えては小さくなって座った。
「…変、だろ。」
「発情期の事か。どうして最初に聞いた時には言わなかったんだ。」
「そう。知られたくなかった。でも…もう、隠しても…無駄だから。いつかは知られるって…わかってたし。」
「…それが今でよかった。もし学校だったらなんて考えるだけで恐ろしい。」
「…ごめん。」
素直にそう謝ると沈んだ顔をする。
隠していた事がバレるのも、人と違うのもあまりいい思いではないだろう。
けれど今回ばかりは少し怒るべきかもしれない。
これがどれだけ重大なことか、きっとコイツは分かっていないから。
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